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あどけない熱
久我 有加著 / 樹 要イラスト
新書館
ディアプラス文庫(2007.1)


毎日に閉塞感を覚えていた中三の春。初めて塾をさぼった公園で、聖は五つ年上のカイネと知り合う。聖の周囲の大人たちの誰とも違い、印象的で自由なカイネに、聖は瞬く間に惹かれてゆく。
だが、カイネには他人と深く関われない理由があるようで、聖は彼の作る距離をもどかしく感じていた……。
宇田川聖(うたがわひじり)×広崎絵音(ひろさきかいね)
5歳年下攻めです。

『オール標準語作品』と本裏のあらすじやオビに謳われているのが笑っちゃいますが、久我さんと言えば関西弁でしたから、確かに初めてのことなんですね。
「宵待ち草」
「二人静」の二編収録されていて、
「宵待ち草」は、二人の出会いから別れまで。聖は中学三年生・14歳で、絵音は19歳。
「二人静」は再会してからの二人で、聖24歳、絵音は29歳です。

中学三年生の聖は、ある日塾へ行く途中、公園で偶然カイネと名乗る男と出会います。カイネにクロッカスの鉢植えを貰い、後日その花を写真に撮って渡したことで、約束をして会うようになる二人。

聖の家は、祖父は代議士、父は教師、母は華道の師範で、姉も成績優秀な大学生です。従兄弟たちもそれなりの大企業や有名大学に行っている手前、両親は聖にもそうなってもらわないと困ると考えています。
しかし、小学校こそいい成績だった聖も、中学になってからは下降線。クラブ活動も辞めさせられ塾に入れられたものの成果はあまりなく、顔を見れば勉強のことしか言わない両親に、聖は大変なプレッシャーを感じていました。
しかし、内気でおとなしい性格の聖は根本的にいい子なので、親に反発することはできず、心ではやりきれない思いを抱えながらも、表面は親の望む息子を演じることしかできないでいます。

そんな時知り合ったカイネの優しさに聖は惹きつけられ、灰色の日常の中で彼と会う時間だけが輝いて、やがてもっと一緒にいたいと思うようになっていきます。
それは恋心へと変わっていく。。
しかし、カイネは自分の名前を教えてくれただけで、それ以外のことは一切話そうとしてはくれませんでした。カイネのアパートには物がほとんどなく、言葉の端から、なにか問題を抱えているか、何かから逃げているような印象があり、聖はいつかカイネが自分の前から消えてしまうのでは・・・と不安を感じます。実際、時折、カイネは聖を遠ざけようとすることもあるからです。
そんなある日、聖は、殴られてアパートでうずくまるカイネを見つけてしまいます。

カイネには兄がおり、兄弟は親に捨てられて施設で育ちました。中学卒業後は二人とも施設を出て、カイネは建設会社で鳶の職を見つけ、夜間の高校にも通い始めるのですが、しかし兄は世間の水になじめず、やがてカイネからお金を巻き上げていくようになります。
カイネが断ると兄の暴挙は周囲に及び、カイネの知人や友人を脅して金を取ろうとするため、カイネは職も学校も住居も失うことになりました。兄から逃げても、兄は執拗に追ってきて、カイネは、そのたびに働いたお金を全て取られ、何度も職や友人を失います。
やがてまともな職にはつけなくなり、迷惑がかかることを怖れて誰かと親しくすることもできなくなりました。そうしてたどり着いた現在のアパートが、再び兄に知られてしまったのです。

聖が慕ってくれるのが嬉しくて楽しくて、つい深入りしてしまったけれど、もう来るな、とカイネは言います。
聖はなんとかしてカイネを救えないかと思いますが、14歳の子供の自分には何もできず、信頼できる教師に相談しても有効な手立てはありません。
不安に駆られ、再びアパートを訪ねた聖は、そこで取っ組み合うカイネと兄を見つけます。

カイネの怒りは頂点に達し、カイネは兄に包丁を向け殺そうとします。兄は逃げ出しますが、その後カイネも家を飛び出し、カイネと聖はその後会うことはなくなります。
のちに、カイネの兄が駅の階段から墜落死したことが「事故」として報じられるのですが、聖はもしかするとカイネが手を下したのではと疑問を持ちます。
しかし、カイネの行方はわからず、聖もこの恋をきっかけに両親のもとを離れ東北の全寮制の高校へ転校するので、調べる術はありません。そんな時、カイネの兄を追っていた刑事・戸部(とべ)が聖を訪ねてきますが、彼にもそれが本当に事故なのかはわからないと言います。
そしてカイネの住所を尋ねても、「教えるな」と言われている、と。
しかし、戸部はひと月に一度か二度訪ねてくるから、その時に伝言があれば伝えるよと言ってくれます。

「今の僕にはまだ、君に会う資格がない。でも僕が大人になったら。五年・・・いや、十年後にまた会ってほしい。初めて会った公園で、初めて会った日に、初めて会った時間に待っています。そのときこそ、僕が本当に君を守るから。クロッカスを飾った部屋で一緒に暮らして下さい」
それが聖の伝言でした。
その後、再会してからが、「二人静」へと続きます。


いい成績を取って、いい大学に入り、いいところに就職することだけが意味のあることだと、自分の価値観を子供に押し付ける親や、そんな親の言うとおりに努力しても報われず、プレッシャーに押しつぶされ、やがて爆発して事件を起こす子供のニュースが毎日のように報道されます。
事件を起こさないまでも、同じような状況にいる子供はおそらくたくさんいて、聖もそういう一人なんですね。こちらは小説で、聖はそんなことはしませんが、現実の方がもっと悲惨であることを思い出してしまい胸が痛みました。
そんな中、聖はカイネという安息の場所を見つけ、少しずつ変わっていきます。
カイネを好きになり、それ以外のものは全てそれ以下…と自分の中で境界線が出来てしまうというのは極端でもあるんですが、それによって、毎日の親の小言や上がらない成績、友人との諍いなど、それまで聖を悩ませていたものは大事ではなくなり、聖は今まで諾々と受け入れて耐えていたものを跳ね返せるようになります。
しかし、いくら強くなっても、14歳という年齢は変わらず、大人になるわけでもないし、急に何かができるようになるわけでもありません。

BL的な見方をすると、二人が出会ったとき、聖はカイネより10cm以上背が低く痩せていて、性格的にも内気で大人しく優しくて泣き虫(これは24になってもでしたが)で、樹さんのイラストも相まって非常に『受け受けしい』のです(笑)
カイネの方が手も大きく、またカイネの「広い、大きい背中」という描写も度々出てきます。14歳の少年にとって19歳で働き、独りで生きているカイネはすごく大人なんですね。
そんな大人に対して、聖は必死に恋をします。カイネの抱える問題も、自分が解決してやりたいんですね。
しかし、自分にはそんな力は全く無い。
カイネを守りたいのに、カイネに縋られると抱きしめられるような格好になり、自分は抱きしめられたいのではなく、抱きしめたいんだ、と思ったりします。年齢だけでなく、その体格の差も、まさに聖の無力そのものの象徴みたいなものなんですね。

無力感や絶望や、早く大人になりたいという渇望がひしひしと伝わってきて、その思いは痛いほどです。
愛する人を守るために強くなりたい、という聖の切ないほどの思いに、泣けそうでした。

長くなっちゃったので再会後の「二人静」は簡単にしますが、聖の背は再会時はカイネより1cm低いですが、まだ伸びてて、ちょっと追い越したみたい。カイネは29ですからもう伸びませんね(笑)
そしてカイネは兄を殺したのか?
『たとえその手が血に染まっていても君を愛している』という聖の愛の前には、そんなことどうでもいいや!くらいなんですけど、カイネがちゃんと真実を語ってくれます。聖は14歳の自分が何もできないと思っていたけれど、ちゃんとできたことがあったんですよ。

久我さんの初めてのオール標準語ということでしたが、もちろん違和感など全然なく、また関西弁から感じる、ある種の明るさや柔らかさがないせいか、非常にダイレクトに想いが伝わってきて、切なくセンシティブな作品となっていました。
個人的にはものすごく好き。
とても丁寧に書かれていて、ピュアで切ない純愛が最高でした。読んで良かったと思える作品でした。
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