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目を閉じて見る夢よりも
桜木 ライカ著 / 朝南 かつみ〔画〕
オークラ出版
プリズム文庫(2007.1)


喫茶店『風花(ふうか』のオーナー・裕紀は、リュック一つで店に来た男に「俺を雇え」と迫られる。
その男上代が厨房で作った料理は、超一級品。時給700円、一日4時間、お小遣いのような給料でいいと言われ、無理矢理住み込みで雇わされることに。
そんなある日、裕紀は親友に上代との関係を疑われ、襲われかける。
その事件をきっかけに腫れ物に触るように自分と接する上代にいらだつ裕紀は「突っ込むだけなら男も変わらないだろう」と上代を誘い、抱かれてしまう。
上代敬一(かみしろけいいち・30歳)×佐野裕紀(さのゆうき・25歳)
料理人×オーナー

桜木さんは、最初にデビュー作を読んだ時何となくツボを外れて以来手に取らずにいましたが、今作は朝南さんのイラストに惹かれて買ってみました。

お話の舞台は北海道。
喫茶店を経営していた祖父母が引退した跡を継ぐ形で、喫茶店『風花』のオーナーとなった裕紀。店の窓からは山々の稜線を望むことができます。
裕紀は一年前、つきあっていた恋人・塚田(つかだ・男)を、ちょうど窓から見えるその山で雪崩により亡くしました。

未だに苦しむ裕紀を支える一人が、親友の晋(しん)です。晋とは学生時代からのつきあいですが、塚田が亡くなったあと、裕紀は晋が、自分に友情以上の感情を抱いていることに気づきます。
恋人を亡くした辛さや寂しさから、幾度も晋の想いに流されて慰められてしまいたいと思いながら、親友としての枠を越えたくない自分、晋に対してどうしても友情以上の気持ちを抱けない自分を知る裕紀はそれを思いとどまり、けれどとても危うい一線の上に立ちながら親友としてつきあいを続けています。

そんなある日、裕紀の喫茶店に、突然男が訪ねてきます。
片足を引き摺るその男は、裕紀の作った食事を口にしたあと、裕紀の料理の拙さを指摘し、厨房に入り込んで自ら料理を作って見せます。そして自分を雇って欲しいと言い出す。
ひと目で一流の調理人だとわかる男は、山間の地元の人間しか来ないような小さな店には不似合いで、また腕に見合うような高額の給料を払うこともできないと裕紀は断りますが、男は「時給700円、一日4時間」そして、それで裕紀の気が咎める分は「住み込みで家賃なし」でいいと、半ば強引に自分を雇うことを決めさせてしまいます。
そうして、裕紀と、その料理人・上代の同居生活が始まるわけです。

たいして繁盛する見通しもない小さな喫茶店に「雇ってほしい」と突然現れ、片足にハンデを持つ男・・・となれば、いかにも訳ありに決まってます。
容易く想像がつくように、上代は、裕紀の亡くなった恋人・塚田を知っていて、塚田の最後の登山に参加もしており、足の怪我は塚田の事故の際に負ったものなんですね。
上代は塚田から裕紀の話を聞いていて、冗談交じりに「何かあったら頼むな」と言われたこともあり、また塚田の死を自分の責任と考えていました。

そんなこととは知らない裕紀は、寂しさのあまり、どんなに心が揺れても親友の想いを受け入れることはできなかったのに、上代には惹かれていきます。
けれど、それが恋人の代わりなのか、上代自身に惹かれているのかは裕紀自身にはわかってません。上代に抱かれている時、塚田の手や温もりを思い出していたし、目を閉じて上代の顔を見ないようにしたりもしています。
恋人を忘れられなくて、今目の前にいる男の全てを受け入れられない。
自分が淋しさを埋めようとしているだけなのか、そうでないのか、自分でもわからないんですね。

なのに、その上代が恋人の死と関係があると知ったとたん、上代にまとわりつく死んだ恋人の影が耐えられないと思ってしまう。
知りたくなかった、知らなかったら、上代を好きになり、恋人を忘れられたのに。
もし、最初に言ってくれていれば、それを知っていても、時が経つごとに、穏やかに惹かれていくことができたかもしれないのに。
上代に惹かれていることに気づくと同時に、見え隠れする塚田の存在が、二人の間に壁となってしまいます。

このあたりの裕紀の複雑な思いは理解できたので、私の中ではわりとすんなりとお話が入ってきました。
裕紀は、恋人を亡くして傷ついて、頑なに操を護っているという、BLに時々いる、そういう清いタイプではないんですね。寂しくて、辛くて、そのために誰でもいいから縋ってしまいたいという弱さを抱えている。
その弱さのせいで、上代への想いが逃げなのか本物なのかわからなくなってるということはあるんですけど。
貞淑な未亡人的でなく、寂しさや渇きや欲情を抱えてグラグラしていて、新しい男の影に亡くなった元男がいると知って、それを邪魔に思うなんて(そこまで言ってないですが。笑)、そういう弱さずるさを抱えているのが却って生々しくていいんじゃないかと思いました。

上代は、イラストのイメージのせいもありますけど、ワイルドな感じで粗野なタイプかと思ってましたが、ワイルドはワイルドでも「山男」なワイルドさで(笑)、誠実な人でしたね。

内がドロドロしてる受けに比べて、朴念仁タイプの攻めなので、チカラ関係は「誘い受け」となっております。無骨な攻めに誘い受け、読み終わってみたら気づきましたが、結構ツボなカップルだったんですね。
気持ちがきちんと通じたら、ニケ月も何にもできなくなっちゃった二人がなんだか可愛らしいと思いました。

途中、ちょっとわかりにくいところはありました。
複雑な心理のせいか、理解力が足りないせいか。独特の言い回しに、言いたいことが見えてこないというか。
けれど、全体としては、わりと好きな雰囲気のお話でした。
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