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彼の孤独を、飼い慣らせ。
神奈木 智著 / 金ひかるイラスト
幻冬舎コミックス
ルチル文庫(2006.11)


響の一ノ瀬組組長襲名から半年。室生龍壱と神埼奈央はようやく穏やかに暮らせるようになった。
ある日、室生は響の刺青を彫る若い彫師・鵺の飼い猫の奈が「ナオ」だと知り、その偶然に引っかかりを覚える。
一方鵺が描いた刺青の下絵を見た奈央は、サインを見て驚く。それは奈央の過去に深く関わりがある名だった。
悩む奈央に、室生は…!?
室生龍壱(むろうりゅういち)×神崎菜央(かんざきなお・20歳)

シリーズ完結編となり、カップルは室生×奈央に戻ってきました。
前作で、響(ひびき)の二代目襲名が済み、響は彼なりの考えと覚悟で背中に刺青を入れることにします。先代の紹介でたどり着いた彫師が、鵺(ぬえ)と名乗る若い男。
響に同行し、鵺の元に訪れた室生は、鵺の飼い猫の名が「ナオ」という名前なのを知り、嫌な予感を覚えます。

その鵺が、今までわからなかった奈央の過去に繋がる人物で、奈央の生い立ちや、ジゴロとなり、刺されて室生に拾われるまでの経緯が明らかになります。
奈央が自分の誕生日を知らず、年齢さえも実は推定であるという壮絶な過去にびっくり。
初登場時、奈央はその時々で屋根と食事を得るために男女問わず利用するジゴロとして登場し、露悪的な態度はろくでなし風でもあったわけですが、そうならざるを得なかった経緯がわかると、汚れているなんて欠片も思えませんでしたね。
室生と出会ってから今まで見えていた奈央、彗のことで親身になったり、室生のために自分を犠牲にしようとしたり、そういう優しく健気な奈央が本質なんだな、と改めてわかりました。

鵺の登場で、二人の間が不安定になるのに加え、室生の元妻が子供とともに二人が暮らすマンションに転がりこんできます。元妻は別人の子を身ごもりながらそれを偽り室生と結婚し、その後本当に好きな相手と暮らすために離婚して外国へ行っていたのですが、その相手が病で死亡。再び室生を頼ろうと舞い戻ってきたんですね。
この元妻と子供の存在が、奈央を不安にさせる。

室生にも、そして奈央にも、過去との対面が巡ってくるわけですね。
鵺も、そして元妻と子供も、室生が奈央に、奈央が室生に与えられないものを持っている。それは「家族」であり、鵺の場合は、彫師とは言えカタギですので安全な生活を奈央に与えることができる。
お互いに本当の家族を知らずに育った身ですから、『家族』という言葉のもつ幻想を笑い飛ばすことができないんですよね。

室生は1巻めで、奈央を一番に考えることはできないと言ったことがあります。室生は響の側近で、何かあったときはまず響を護らなければならない。それは奈央も理解しているのですが、それゆえに心のどこかで、二人の行く先に不安感を抱き「期限付き」と思おうとしているところがあります。いつ捨てられても仕方がない、と。それに加え、前作では室生に恨みをだく暮林(くればやし)に拉致され、室生を窮地に追い込んでしまった。だから、自分は室生の足手まといになるという思いもある。拉致されたとき、自分を汚れた人間だと暮林に言われたことも痛みとなって残っています。そして元妻と子供の姿を見れば、室生が一度は手にしようとした「家族」という存在を与えることも自分にはできないと思ってしまう。
室生は室生で、自分の傍におくことで、奈央が実際に危険な目にあい、怪我をしてしまっていることにやはり不安があるんですね。自分と一緒にいることで、奈央がどんな目に遭うか、実際奈央は何度も巻き込まれ傷を増やしていますしね。その痛みを本当には理解していなかった。鵺と一緒にいるならば、そんな目に合わさずともすむ。過去には実際奈央と鵺の間には信頼関係があったわけで、自分と一緒にいるよりも…とやはり考えてしまうわけです。失うことが怖いからこそ、手を離してやらなければ、というのは皮肉ですね。
こう書くと、ヤクザものにおいてはそんなに珍しい悩みではないのかもしれないけど、お互い好きでそばにいて欲しいと思ってるのに、相手のためや幸せを思うせいで、そこまで言ってはいけないみたいに思ってる二人の葛藤が伝わってきます。

室生が意外とヘタレですよね。愛するものを持つと強さにもなるけど弱みにもなる。様々な逡巡を、奈央を失うかもというギリギリになって、スッパリ乗り越えた、という感じでしょうか。
奈央はしっかりしてて強い子で、いつも人を想う子なんだなというのは、過去も、そして室生とのことでもよくわかります。健気でいい子ですが、肝心なときにすぐ物が言えなくなるのでじれったい(笑)
モグリの医者・優哉が今回二人の相談役となっていますが、要は、相手にちゃんと話をしろ、ってことでしょ。私も「何で言わないかな」と何度も思ったのは正直なところですねー。

ヤクザというのに甘えてる、というのはなるほどなと思いました。二代目組長・響と恋人になった優哉だからこそ。そして彗(すい)も同じことを言ってるんですね。優哉や彗の恋愛だって決して順風漫歩と言えるものではなく、将来トラブルが起こると予想できる関係だから、二人の言葉に重みがありますね。
ちゃんと覚悟ができてなかったのは、室生だけだったのかな。二人に窘められて形無しですが、そんなふうに恋愛に不器用になってる室生もいいですよね。キレものなだけに、そういう弱さは人間らしくて。

鵺も、なかなか真っ直ぐで良さそうな男の子ですよね。美形みたいだし、ちょっと気になります。

メインカップルの他に、響、優哉もかなり出演しています。橘、彗はちょびっとだけで寂しい。
ヤクザシリーズとしては、甘い雰囲気だったかな。
いっぺんに3カップルがごちゃごちゃするんじゃなくて、1冊ずつメインにしてくれたのは読みやすかったです。
あとがきに、室生の手下視点のオモロイSSサービスがありました。
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