滅びた湘国の王族で、唯一生き残った月心は、煬大牙の計らいでめでたく元服し、伶人として朝に仕えることになった。
典楽庁の他の伶人に湘の楽曲を伝授する役目を賜った月心だったが、楽生のうちのひとりから度々いやがらせを受けるようになる。
日々、傷心していく月心に、大牙は憂慮を抱いていたが…。
典楽庁の他の伶人に湘の楽曲を伝授する役目を賜った月心だったが、楽生のうちのひとりから度々いやがらせを受けるようになる。
日々、傷心していく月心に、大牙は憂慮を抱いていたが…。
煬大牙(よう・たいが)×蔡月心(さい・げっしん)
大牙がひとつ年下です。本作では大牙は23歳になっていました。
「月に歩す」
「月に乗ず」
「月に酔う」の三編収録されています。
「月に歩ず」では、従五品上伶人という位階をいただいた月心が、典楽庁の他の伶人に湘の楽曲を教えることになるお話です。平たく言えば「音楽の先生」となるわけです。
この国にきて以来ずっと淡宮を出ず、湘国にいた時も廃嫡の子として人の目に触れることのなかった月心が初めて人前に出て、そして初めての仕事です。
素直な生徒もいれば、反抗的な生徒もいる。
現代風に言えば、新任教師がクラスの教え子たちと関わりながら、トラブルを乗り越えて成長する、そんな図だと思います。
嫌がらせをされて傷つき、弱音を吐きそうになりながらも、大牙に励まされて頑張る月心。
ハラハラしつつ月心を見守り、月心が一言言えば、すぐにでも自分が何とかしてやるそ…と手薬煉引くような大牙の方が、なんだかおかしいです。いや、ちょっと月心にはナイショで手を貸してしまってましたが(笑)
「月に歩す」では大牙は落馬により左手の骨に日々が入り、腕を吊っています。あらかた痛みが取れてきたころ、怪我を口実に温泉に湯治に行こう…と思いついた大牙が、月心と、不本意ながら文官も連れて温泉へいくショートストーリーが「月に乗ず」です。
大きな節目の前の、ひとときの安らぎと幸せな愛の日々というところでしょうか。
そして問題の(笑)「月に酔う」。
以前から言われていたので、ああやはり、と思いましたが、大牙は妃を娶ります。
それを知った最初の印象は「ショック」だったのですが、読み終わって、少し考えが変わりました。
いえ、本音のところでは複雑な部分も残っていますが、それでも、これが結局は大牙にも月心にも良い結果になったというのがよくわかったのです。
一国の王となるべき大牙が妃を娶らなければならないのは当たり前のことです。けれど大牙には月心という何者にも変えがたい想い人がいます。
月心を妃に迎えられれば問題はありませんが、月心は男。
しかし大牙は意を決し、父に月心の存在を明かし、月心を妃に迎えたいと思っていると打ち明けます。
で、お父さん(笑)はそれをOKするのです。
なんと豪胆な父でしょう(笑)。
月心の出身や、性別に囚われることなく、子の思いを汲み取ることができるとは相当な人物とお見受けします。占いの後押しもありましたが。
しかしこれには条件がある。
「ただし血を絶やしてはならぬ」
月心を「妃」として迎い入れるためには、子を成してくれる妃を、やはり娶らなければならないのです。
この時代、やはり跡継ぎは避けては通れないことなんでしょう。
BLというファンタジーであるのだから、そこまで現実的にしなくても、一生一人身、月心だけを愛し、跡継ぎは弟に任せてもよかったわけです。実際現代ものではそれが王道ですよね。または兄弟揃って男に走り、お家断絶…(笑)
けれど、佐倉先生は決めていらしたんですよね、きっと。大牙の嫁取り以外、他の選択肢は考えていなかったと思います。
大牙が妃を娶らずにいたとしたら、長子である大牙はおそらくほうぼうから詰問されたり叱責されたりしたと思うんですよ。原因となった月心は形見の狭い思いをし、傷ついたかもしれません。
父の条件である「子」を作ったことで月心の存在は認められ、王に認められるということは、その国の誰にも文句は言えないということですから、大牙は誰憚ることなく、月心を寵愛し大切にすることができたのですよね。
それが証拠に後世に残る歴史書では、月心は“蔡后”と呼ばれ、つまり「正妃」に迎えられたということがわかります。そして、大牙の子を産んだ妃は、月心が正妃でいる間、いわゆる“側室”となっていたそうです。そして月心が亡くなったあと、改めて立后されて后妃となったということでした。
現代とは違い、男が側室を持つことが珍しいことではなかった時代です。まして王となれば、やはり男の子を絶やさないように何人かの側室を持つことは当たり前のことというか、むしろ推奨されていたかもしれません。
なので、現代にこれを当てはめて考えるのはちょっと違うように思います。
月心がどう思うかについては、三巻読めば月心の性質というのがわかりすぎるほどわかりますから、淡々としているようなのも、やせ我慢などではないことは重々わかります。
また月心の存在を知りながら大牙に嫁いだ妃もまた、彼女には普通の女性とは違う野望や夢があって、将来には「国の母」という存在になったように、大牙を、そして国を支える女となったということこそが、結果としてその思いを表しているように思います。「将軍になりたい」と言った女性ですからね。将軍にはなれなくても、ある意味、彼女の希望は更に上の形で叶ったと言えると思う。
そうは思っても現代に生きる私が、同じように、なかなかすんなり納得できないのが複雑なところでもあります。
このへんは、もうどうしようもないですね。
しかし一方では、嫁取りから安易に逃げなかったのは結果的に「物語」としては良かったんじゃないかとも思う。
うまく言えないんですけど、大牙と月心の愛の物語として終わるだけでなく、一国の歴史のひと時代を描いた「歴史ロマン」とも読め、そこにあったという愛の形がとても感慨深く感じられます。
これで完全完結ということですね。
ファンと言うのは、もっともっとと欲望が尽きないもので、願わくば「正妃」となり、大牙に熱く寵愛される月心を見てみたいと思わずにはいられないのですが、無粋でしょうか。
中国時代モノということで、用語ひとつひとつは耳慣れないものも多いですが、大変わかりやすく読みやすい文章となっていますので、戸惑うことはないと思います。
「完結」ということで、この機会に是非。
大牙がひとつ年下です。本作では大牙は23歳になっていました。
「月に歩す」
「月に乗ず」
「月に酔う」の三編収録されています。
「月に歩ず」では、従五品上伶人という位階をいただいた月心が、典楽庁の他の伶人に湘の楽曲を教えることになるお話です。平たく言えば「音楽の先生」となるわけです。
この国にきて以来ずっと淡宮を出ず、湘国にいた時も廃嫡の子として人の目に触れることのなかった月心が初めて人前に出て、そして初めての仕事です。
素直な生徒もいれば、反抗的な生徒もいる。
現代風に言えば、新任教師がクラスの教え子たちと関わりながら、トラブルを乗り越えて成長する、そんな図だと思います。
嫌がらせをされて傷つき、弱音を吐きそうになりながらも、大牙に励まされて頑張る月心。
ハラハラしつつ月心を見守り、月心が一言言えば、すぐにでも自分が何とかしてやるそ…と手薬煉引くような大牙の方が、なんだかおかしいです。いや、ちょっと月心にはナイショで手を貸してしまってましたが(笑)
「月に歩す」では大牙は落馬により左手の骨に日々が入り、腕を吊っています。あらかた痛みが取れてきたころ、怪我を口実に温泉に湯治に行こう…と思いついた大牙が、月心と、不本意ながら文官も連れて温泉へいくショートストーリーが「月に乗ず」です。
大きな節目の前の、ひとときの安らぎと幸せな愛の日々というところでしょうか。
そして問題の(笑)「月に酔う」。
以前から言われていたので、ああやはり、と思いましたが、大牙は妃を娶ります。
それを知った最初の印象は「ショック」だったのですが、読み終わって、少し考えが変わりました。
いえ、本音のところでは複雑な部分も残っていますが、それでも、これが結局は大牙にも月心にも良い結果になったというのがよくわかったのです。
一国の王となるべき大牙が妃を娶らなければならないのは当たり前のことです。けれど大牙には月心という何者にも変えがたい想い人がいます。
月心を妃に迎えられれば問題はありませんが、月心は男。
しかし大牙は意を決し、父に月心の存在を明かし、月心を妃に迎えたいと思っていると打ち明けます。
で、お父さん(笑)はそれをOKするのです。
なんと豪胆な父でしょう(笑)。
月心の出身や、性別に囚われることなく、子の思いを汲み取ることができるとは相当な人物とお見受けします。占いの後押しもありましたが。
しかしこれには条件がある。
「ただし血を絶やしてはならぬ」
月心を「妃」として迎い入れるためには、子を成してくれる妃を、やはり娶らなければならないのです。
この時代、やはり跡継ぎは避けては通れないことなんでしょう。
BLというファンタジーであるのだから、そこまで現実的にしなくても、一生一人身、月心だけを愛し、跡継ぎは弟に任せてもよかったわけです。実際現代ものではそれが王道ですよね。または兄弟揃って男に走り、お家断絶…(笑)
けれど、佐倉先生は決めていらしたんですよね、きっと。大牙の嫁取り以外、他の選択肢は考えていなかったと思います。
大牙が妃を娶らずにいたとしたら、長子である大牙はおそらくほうぼうから詰問されたり叱責されたりしたと思うんですよ。原因となった月心は形見の狭い思いをし、傷ついたかもしれません。
父の条件である「子」を作ったことで月心の存在は認められ、王に認められるということは、その国の誰にも文句は言えないということですから、大牙は誰憚ることなく、月心を寵愛し大切にすることができたのですよね。
それが証拠に後世に残る歴史書では、月心は“蔡后”と呼ばれ、つまり「正妃」に迎えられたということがわかります。そして、大牙の子を産んだ妃は、月心が正妃でいる間、いわゆる“側室”となっていたそうです。そして月心が亡くなったあと、改めて立后されて后妃となったということでした。
現代とは違い、男が側室を持つことが珍しいことではなかった時代です。まして王となれば、やはり男の子を絶やさないように何人かの側室を持つことは当たり前のことというか、むしろ推奨されていたかもしれません。
なので、現代にこれを当てはめて考えるのはちょっと違うように思います。
月心がどう思うかについては、三巻読めば月心の性質というのがわかりすぎるほどわかりますから、淡々としているようなのも、やせ我慢などではないことは重々わかります。
また月心の存在を知りながら大牙に嫁いだ妃もまた、彼女には普通の女性とは違う野望や夢があって、将来には「国の母」という存在になったように、大牙を、そして国を支える女となったということこそが、結果としてその思いを表しているように思います。「将軍になりたい」と言った女性ですからね。将軍にはなれなくても、ある意味、彼女の希望は更に上の形で叶ったと言えると思う。
そうは思っても現代に生きる私が、同じように、なかなかすんなり納得できないのが複雑なところでもあります。
このへんは、もうどうしようもないですね。
しかし一方では、嫁取りから安易に逃げなかったのは結果的に「物語」としては良かったんじゃないかとも思う。
うまく言えないんですけど、大牙と月心の愛の物語として終わるだけでなく、一国の歴史のひと時代を描いた「歴史ロマン」とも読め、そこにあったという愛の形がとても感慨深く感じられます。
これで完全完結ということですね。
ファンと言うのは、もっともっとと欲望が尽きないもので、願わくば「正妃」となり、大牙に熱く寵愛される月心を見てみたいと思わずにはいられないのですが、無粋でしょうか。
中国時代モノということで、用語ひとつひとつは耳慣れないものも多いですが、大変わかりやすく読みやすい文章となっていますので、戸惑うことはないと思います。
「完結」ということで、この機会に是非。
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