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シンデレラを嗤え
剛 しいら著 / 石田育絵イラスト
成美堂出版
クリスタル文庫(2006.11)


むなしく卑屈な日常を壊す勇気もなかった灰原が、道端の占い師の言葉を契機に家庭も仕事も放り出して自分探しを始めた。
運命が逆転する世界で自由を手に入れ、自分の力で現状を変え始めた男はどんどん魅力的に成長していく。
それはもはや魔法の力などではなく…。
大人の男のサクセスラブストーリー。
灰原眞利(はいばら・まさとし38歳)×夏神洸一(かがみ・こういち33歳)

灰原は区役所の『すぐやる課』課長。
簡単にいえば住民の苦情を直接聞く仕事です。担当になって三年、毎日毎日住民と担当部門の間を走りまわり、コメツキバッタのようにあちこちで頭を下げ続ける日々。
仕事に疲弊して家に帰れば、そんなに遅い帰宅時間でもないのに家族は自室に引きとったあと。冷めた食事をひとりで食べる。
妻とは寝室も別々で、男としての役目はとうに終わっている。話し相手にでもなってくれればいいけれど、共通の趣味もなく、話すことは娘のことだけ。
唯一の趣味はサッカークジ。小銭で済むし、乏しい小遣いで楽しむにはちょうどいいのだ。

かなりくたびれたオッサンの灰原は、ある日、ふとした気まぐれで街角の占い師に運勢を占ってもらいます。
「開運の秘訣は、この1ヵ月間は何事も思ったことと逆をやることですな」
占いで言われたとおり、灰原はクジの予想を考えたのとは反対に記入し、“これが当ったら全てを捨ててみよう”と思います。
そして…なんと三千万円の大当たりをしてしまうんですね。
それで思ったとおり行動してしまう灰原は、ただのオッサンとは言えないかも(笑)。ま、お話ですからね。

それをきっかけに仕事を辞め、妻に離婚届を預けて家を出た灰原は、マンスリーマンションを契約し、ジムに通い始めます。そのジムで出会うのが夏神洸一。
灰原と夏神は親しくなり、夏神が代表取締役を務める「夏神クリスタル」への就職も勧められる。
さえないオッサンだった灰原は、妻と離れ、夏神と出会い、自分を磨いて、新しい仕事にもうちこみ…とどんどん魅力的に変貌していきます。
タイトルに「シンデレラ」とありますが、灰原がさしずめ“シンデレラ”。(名前も“灰”ですね、そういえば)

灰原だけでなく、誰もが「シンデレラ」だとも読み取れます。
有名な「シンデレラ」のお話は、王子と結婚して“めでたしめでたし”なんですが、ではその後は?
結婚したら、好きな人と結ばれたら、それでずっと幸せなんでしょうか。

このお話は、灰原のサクセスストーリーなんですが、“めでたしめでたし”のそのあとのことが大事なんだよ、というお話でもあります。
灰原の家庭、妻との関係など、既婚者には身につまされる部分があるかもしれませんね。シンデレラのその後が幸せであるためには、“お互いに”たくさんの努力をしなければならないんですよね。
灰原の不満はよく理解できますし、私も反省しなければならない部分がありありですが(笑)、それでも言わせてもらうと妻にも同じくらい言いたいことはたくさんあると思うんですよ。このお話ではどうしても妻は悪役となっている印象があるので、妻と夏神の対決は、ある意味スカッとしましたが、一方的に悪いのかといえば、そうではないと思うんですけどねー。「お互いさま」でしょ。この件に関しては「妻」としては言いたいことがいっぱい…(笑)
あ、灰原は妻を一方的に悪いとは言ってないですよ。
これはBLなので、妻は悪役、そういう方向にいくことはしょうがないのです(笑)

灰原に対して「王子」ということになる夏神は灰原に出逢った時から、灰原狙い。そのへんはよくわかりますね。
夏神に押され、男との関係なんて考えもしないオッサンの灰原が落とされていくのも面白いです。
夏神ってちょっと魔性っぽいです。
初めてHすることになったとき、戸惑う灰原が夏神に「何考えてるの?」と聞かれ答えたセリフが面白かった。
「お姫様みたいに扱うべきなのか、それとも柔道の練習相手のように扱うのか悩んでたんだ」
もう衝動や一時の熱だけで突っ走っていかれない、いろいろ考えちゃうオヤジな灰原の心情が随所に出てる。

鬱々とした日常から抜け出すための、手助けとなるのが夏神というわけですが、変貌を遂げ魅力的になって夏神と恋人同士になっても、そこからもまた努力をお互いにしていかなければ、幸せにはなれないのです。
灰原も、そして誰もが忘れてしまっている、ハッピーエンドの後の努力。
それが大切なんだと気づくお話なんですね。
視点が灰原、一人称で、「ひとりごと」「ぼやき」とも取れる語り口調が面白いです。

クリスタル文庫さんは一緒に発売された榎田さんと並んで剛さんも30代後半オヤジのお話でした。こちらも良いですよ。


さて、ちょっとばかし反省したところで私も我が家を振り返ってみましたが…。
パンツいっちょで歩く夫には、やはり言いたいことが山盛り。
しかし、「家」は安心して鎧を脱ぐ場所でもあるんですよ。
「王子」にしては脱ぎすぎという気もするが。
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