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リベット
木原 音瀬著 / 藤田貴美イラスト
蒼竜社
ホリーノベルズ(2006.9)


初芝公平は、誰にも知られたくない大きな問題を抱えて暮らしていた。しかし、その悩みと明るく向き合いながら、一人で生きていこうとしていた初芝の心を乱すものがあった。それは、いつも温かく抱き締めてくれる恋人の由紀と、常に初芝の我が侭を聞いてくれる職場の後輩の乾の存在だった。
二人は初芝の心を弱くも強くもする。自分の悩みを告げるべきか、初芝は葛藤するが…。
乾武則(いぬいたけのり・23歳)×初芝公平(はつしばこうへい・28歳)
高校教師同士。

「リベット」
「リベット2」の二編。


他社さんでプロットが没になり、ホリーでも担当さんが「難しいですね」と言ったという、前作に負けない衝撃の作品。
「BL」という枠には収まりきらず、これを読んだ人それぞれが内面と向き合って自分に問いかけ、考える作品だと思う。


初芝はHIVに感染しています。
初芝は大学生の時、ゲイの友人・阿岸(あぎし)にレイプされました。
その後阿岸を避け続けたものの、数年後骨と皮にやせ細った阿岸が目の前に現われ、初芝に「HIVを発症した」と告げます。阿岸も自分がまさか感染しているとは思わず、気づいた時には手遅れでした。初芝に「検査をしてくれ」と頼む阿岸。
そして初芝自身も陽性と診断されます。

初芝はまだ発症いたってはいませんが、病のことは親にも友人にも告げられず、初芝は定期的な検査を続けながら、教師として日常を送っています。
HIVだとわかったあと、友人の結婚式で出会った由紀(ゆき)に告白され、一旦は断ったものの、その後恋人となります。しかし、由紀に自分のことを打ち明ける勇気は持てない。
そんな時、新任として同じ高校に赴任してきた乾は、初芝の病について気づいてしまうのです。

乾はゲイで、大学生のときボランティアでHIV患者と接したことがあり、その病気に詳しく、初芝の様子を見てそれと気づきます。乾が接していたHIV患者が実は阿岸だったという特別な事情も隠されているのですが。
自分の指導担当となった初芝は、厳しいけれど、優しく、その人柄に接するうちに、乾は病と知りながら初芝を好きになります。

周囲の偏見への恐怖。死への不安。体調不良による苦しみ。理不尽なレイプによって負わされた運命はあまりに重く、その恨み、苦しみは読むのにたいへん辛かった。
こんな運命を背負うためには、誰だって支えが欲しい。誰かに慰めて暖めてもらいたい。一人でいるのは怖い。初芝は由紀を愛し、由紀によって癒され、由紀を心の支えとしています。
しかし、真実を告げた時、由紀は去っていく。

初芝は何も悪いことはしていないのに、身体に爆弾を抱えさせられ、発症の恐怖、死の恐怖を常に意識させられてしまう。下がっていく免疫を表す数値は、まるで死へのカウントダウンのようです。
普段は隠している恐れや、どうにもならない怒りは、乾に向けられます。自分を好きだと言ってくれるけれど、初芝には乾の想いに答えることはできません。自分はゲイではないし、おそらく、ゲイの阿岸によって自分の身に引き起こされた出来事とその後の運命が、「男」の「好きだ」という気持ちに本能的に恐れを感じるんだと思います。
しかし、乾は初芝に拒否されても、初芝の全てを受け止めます。
初芝のどうにもならない苛立ち、不安、怒り、恐怖の全てを受け止めながら、「自分のことは気にしなくていい」と乾は言う。
乾の前で感情を抑えきれず、八つ当たりの限りを尽くしてしまう初芝は自己嫌悪に陥り、乾を突き放そうとする。けれど乾は離れない。

初芝から離れていった由紀や、同僚の女性教師は特別ではないと思う。
子供がどうの、未来がどうのというより、「感染への恐怖」は簡単には拭いきれない。子供ができない夫婦はいるし、結婚してから病になることだってあるだろう。多くの人は恋人を作る時、結婚する時、子供が作れるかどうか、病気にならないかどうかを確信してそうするわけではないと思う。
たとえば、身体が不自由だったり、病気を抱えていても、支えていこう、一緒に頑張って行こうと言える関係はある。
しかし、もしそれが、「移る病気」だったら?
そして移っても治療薬はなく命に関わる病だったら?

乾は、初芝の病を知りながら彼を好きになり、感染の心配はこれっぽちもしていない。優しく細やかに、そして大らかに時には能天気といえるほどごく普通に初芝に接し、全てを受け止めている。現在の初芝も、未来の初芝も全て。

初芝が背負う重すぎる荷物は、初芝だけのものではあるが、それを運んで歩くために誰かに傍にいて欲しいと思っている。誰かに重荷を背負わせたいわけではなく、そんな罪悪感には耐えられないけれど、誰かがそばにいてくれれば、自分で全てを運びながらも、何とか歩いていける強さを持てるだろうと。けれど恋人になった女性たちは、傍にいて一緒に歩いてはくれませんでした。
けれど、乾は初芝の人生を一緒に歩くだけでなく、時には初芝を支え、時には手を貸し、時には弱った初芝を背負い、そして初芝の背負う重荷、心の重荷の半分は持ってくれるのではないか。初芝が罪悪感を感じたとしても、乾はきっとそんな想いまでも吹き飛ばしてしまうことができるだろう。

お話を通じて、初芝を理解し支えているのは乾なんだけど、初芝はほぼラストまで、乾を受け入れることができずにいます。
けれど乾を受け入れると決めたとき、ストンとつき物が落ちたように楽になったと初芝は言っています。
乾の手を取ることができて本当に良かったと思う。
初芝の運命は重いけれど、乾がそばにいてくれることは、何倍もの幸せだ。
そして、乾が初芝に惹かれる発端は阿岸だったことを思うと、不思議な気がする。阿岸が言った「神様、ありがとうございます」の一言が、辛かった。

カバーを捲ると、本編から3年後の二人のショートストーリーがあります。先に読んじゃ駄目ですよ(笑)
乾の明るさ、愛情は、このお話と、それを読んだ私たち、そして初芝の「救い」です。

それぞれが、いろんなことを考えさせられるお話だと思います。
涙もろいかたは要ハンカチ&ティッシュ。
「箱の中」「檻の外」と同様、読まないのはもったいないです。
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