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もう二度と離さない
樹生 かなめ〔著〕 / 奈良千春イラスト
講談社
X文庫ホワイトハート(2006.8)


日本画の大家を父に持ち、美貌と才能に溢れる若き洋画家・佐伯渓舟は、助手であり恋人でもある相良司とともに暮らしている。小さなトラブルが起こることもあるが、強い絆で結ばれているふたりは幸せな毎日を過ごしていた。
そんなある日、司の過去を知る男、そして渓舟の過去を探る男が現れたことにより、平穏な生活は少しずつ狂い始めていき…。
佐伯渓舟(さえきけいしゅう)×相良司(さがらつかさ)
同い年、27歳。洋画家とその助手。
カッパだとか猫だとか最近そんなんばっかりの樹生さんでしたが、これはシリアスですね。

二人が出会ったのは21歳の時、渓舟は大学3年、身体が弱く高校を中退せざるを得なかった司が当時入院していたサナトリウムの庭でした。
絶世の麗人、白皙の美貌を誇る渓舟は、それ以来毎日のように司を見舞いにやってきます。
やがて、二人の間に恋がうまれ、司がサナトリウムを退院したあとに同居。
司の体調を気づかい、寒い季節には暖かい所、暑い季節には凌ぎ易い涼しい地を求めて移り住みながら、渓舟は洋画家として、司はその助手をしながら現在までずっと一緒に暮らしてきました。

渓舟と司の関係は、渓舟の両親にも認められており、渓舟が師事する洋画家の大家・井伊(いい)も、そして渓舟の弁護士で友人の緒方(おがた)、その助手でやはり友人の浅利邦彦(あさりくにひこ)も、みな優しく、暖かく、二人の関係を受け入れ司を守ってくれています。
恋人の渓舟は、たいへんに優しく、身体の弱い司を気づかい大切にしてくれて、「助手」であるはずの司に家事さえもなかなかさせないほど。折に触れ、司に愛の言葉を惜しみなく囁きます。夜は、司の身体の負担を考え、自分の欲求を抑えさえする。

美貌の洋画家である渓舟が、その容姿が話題を呼びマスコミから騒がれたり、時にはストーカーとなった女性に追い回されたりして、その攻撃の矛先が司に向きトラブルになることはありますが、そんな時でさえ、渓舟はもちろん、緒方も邦彦も、そして井伊も皆が司を庇い、司が嫌な思いをしないようにしてくれる。
恋人にも友人にも愛され、親や師匠も二人の関係に大賛成。
六甲の山奥にある二人きりの住居には友人が訪ねてきたり、時には京都へ足を伸ばし、井伊とともに京懐石を楽しんだり。
渓舟は個展の予定もあり、そしてまた彼の意外な特技である「催眠療法」の腕は本職の心療内科医よりも効き目があると言われ、時折り、心に傷を持った患者が訪ねてくると、それを直してやったりもします。
なんだかどこをとっても、幸せな渓舟と司。

お話は冒頭から中盤までずっとそんな感じです。
―――なんかおかしくないですか。もちろん落とし穴があるに決まってます。

司、渓舟の過去を知る人物が現れ、一挙にそれまでのことが崩れてしまいます。
「催眠療法」というのがキーワードですが、洋画家の渓舟の特技としてはあまりに唐突で不自然すぎる気が。
一応理由はあるのでそれはおいておくとして、落とし穴が開き始めると展開が速かったですね。あっという間に真実が明るみに出る。この「真実」とやらが、ちょっと痛々しくキツいですね。

ただ、その辺が明るみに出るあたりから、とにかく展開速いので、実際は大変惨く、悲惨な出来事なんですが、そのわりにサラッと流れていってしまってる。過去の出来事であるため、進行形で語られるのではないから、イタさが過剰にダイレクトに伝わってこないというのもあるのかと思います。これを現在進行形でやられたら、かなり困るな。
事のデカさ、衝撃度に比べると、大変あっさりしているように思います。

樹生さんは登場人物を過酷な状況に追い込むのに容赦がなく、時には悪趣味の域にさえ達している…と思うんだけど、樹生さんはそれだけやっといても深く突っ込むことはしない。突っ込まれればそれはそれであまりに重過ぎて受け止める自信はないですが、ホントはもっと本人にとって深刻なんじゃないのか?と引っかかることは確か。
そこまでの過去を背負わせる必要あるのかな・・・と思ってしまいました。
「樹生先生、それはやりすぎ」と思うことって、私は割と多い。

お話の設定や筋は結構好きだったんです。
「過去」から、渓舟や、まわりの人間たちの司への愛情や想いが生まれ、それぞれの人生が変化して、今へ繋がってるというのが。
そしてそれぞれが過去を乗り越えていく・・・と前向きなはずなのに、その「過去」が重たすぎるため、読後感がすっきりしないのがやはり残念。
だけど何だか心に残るお話なんですよね。
樹生さんをやめられない理由がこの辺にあると思うけど、それが何だか自分でもよくわからない。
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