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純情アイランド
砂原 糖子著 / 夏目イサク画
新書館
ディアプラス文庫(2006.8)


崎浜港平(20)には悩みがあった。
島の生き神様同然の幼馴染み比名瀬に好かれて以来、生まれ育った比名島を出られない。比名瀬から逃げ回ること11年、その風景は日常と化していた。
そんなある日、比名瀬がアパートの隣室に越してくる。生活能力ゼロの比名瀬をなぜか放っておけない崎浜。
だが仕方なく世話を焼くうち、一途に自分を慕う比名瀬を可愛く思い始め…!?
崎浜港平(さきはまこうへい・20歳)×比名瀬稜(ひなせりょう・20歳)

「純情アイランド」
「純情クリスマス」の二編。

楽しみにしていた砂原さんの新作です。
今回は「島もの」。
「島」舞台のお話好きなんですよ。
島に限らず、田舎の山村、過疎の港町とか、セレブな舞台よりも何故か心惹かれるものがあります。
そういうところで育った男らしい~攻めに惹かれます。
砂原さんがあとがきで仰ってるように“力持ち、サバサバしてる、寒さに強い、落とした食べ物も平気で口に入れる、流行に疎い”というのが正しい「男らしさ」の定義かどうかわかりませんが(笑)、こういう舞台で私の想像する男らしさも、似たようなもんです(笑)。そういうワイルドで純朴な感じが好きだな、と思う。

で、崎浜港平は、そんな感じのタイプです。
日本海に浮かぶ地図にも明確に載ってないような島・比名島(ひなしま)育ちの、男っぽいタイプ。そして受けの比名瀬は、「比名島」と島の名前になってるように、ご先祖は島の主。
島に似合わぬ富豪でセレブ育ちでありますが、港平の家は8人の貧乏大家族。小学三年生のとき、TVで貧乏大家族の番組を見た比名瀬は、その暮らしに興味を惹かれ、港平に「友達になって」と申し込みます。「なんで、おれ?」という港平に「だって君が島で一番の貧乏だから」という比名瀬。
それ以来港平にとって比名瀬は天敵。しかし比名瀬は港平にべったりとくっつき、11年経った今、ついに港平の住む一間のボロアパートの隣に引っ越してきます。

比名瀬は、育ちの良さが裏目に出たような、天然ボケのお坊ちゃんです。間の抜けた言動で港平を惑わし、生活能力のなさで手をかけさせる。
そんな比名瀬を迷惑にしか思っていない港平は、世話を焼きながらも、時々比名瀬を追い払うために、本島(本州)への買い物に行かせます。街のパン屋の焼きたてのクリームパンが食べたいとか、水道水が飲めなくなったから、「アルプス天然水」を買ってこいとか。
多少良心は痛むものの、比名瀬の想いに答えようなんてことは、雀の涙ほどにも考えていません。

港平は、比名瀬につきまとわれるようになってから、何故か島から一歩も出ることができなくなっています。まるで比名瀬が自分をどこにも行かせまいと「呪い」を掛けでもしたように、船に乗ろうとすると、にわかに天候が悪化し、舟は遭難の危険に合う。
そのため恋人にも振られてしまうんですが、「なんで出られないのか」という不思議の訳は、きっちりとはわからないんですよね。

その辺に拘ってしまうと抜けられなくなってしまうので、深く考えない方がいいように思います(笑)。
ディアプラスの砂原さんの前々作「斜向かいのヘブン」でも、ごく普通のリーマンものに「吸血鬼」という要素が入り込んで「不思議」を作り出していたんですが、それとはちょっと違うものの、似たような感じを受けました。
「どこにでもある日常なのに、わけのわからないものが普通に存在してる違和感」をかもし出している。こういうのお好きなのかしら(笑)。

で、お話に戻りますと、港平が嘘をついて比名瀬を追い払っていたことを比名瀬が知ってしまい、比名瀬は初めて港平にとって自分がどんなに迷惑だったかということに気づきます。
比名瀬は港平から離れようとします。
いつも自分の近くにあって、その存在に慣れ、それどころか邪険にして邪魔にしか思っていなかったものが、突然無くなる違和感や焦燥感。港平も案の定、比名瀬の不在に心が揺れる。
なくなってからその大切さに気づくというのはありますよね。

「純情クリスマス」は、なんと遭難と記憶喪失です。
雪山で遭難し、山小屋で二人きり…というのはベタベタですが、確かに萌えな妄想ですよね。これは雪山じゃないですけども。

港平のような無骨で口の上手いことなど言えないタイプは日本人には多いですよね(笑)
「好き」という言葉ひとつ、彼女や奥さんに言えない男は履いて捨てるほどいるんじゃないだろうか。
甘ったるいセリフを累々と口にする男よりも、「好きだ」の一言を言うのにさえ躊躇い悩むぶきっちょな港平は好きですが、最初くらい言っておいた方がいいでしょうね、やっぱり。
「好き」と言えなかったばっかりに…と、そんなお話でした。
このお話もちょっと不思議な感じなんですけど、わかったようなことを言うよりも、そのまま二人の想いに身を委ねた方が面白いですよね。

夏目イサクさんのイラストも良かったです。
相変わらず、言い回しや文章運びがツボというか、砂原さんのユーモアや心理描写に波長が合うのか、とても受け取りやすいので、やはり好きだな~と思います。
読んでしまうと「さて、次は?」と楽しみな作家さんです。
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