飛滝惣三郎(ひたきそうざぶろう・30歳)×篁音彦(たかむらおとひこ・24歳)
天才俳優と新人(三年目)俳優。
シリーズで三冊出ています。
気になってたけど未読のままでしたが、お勧め戴いて遅まきながら読んでみました。
結論から先にいうと、たいへん面白かったです。
飛滝にちょっと囚われてしまって何とも言えない不思議な気持ちのまま寝たら、その気持ちのまま妙な夢を見てしまったくらいのめり込んで読みました(笑)。
ちょっと長くなりますが、一巻を中心に、三巻まとめて感想書いてしまいます。
シリーズ一作目「顔のない男」のお話は。
デビューして三年目、泣かず飛ばずの俳優・音彦は、ある日、天才俳優と言われる飛滝惣三郎の相手役として出演依頼を受けます。音彦の役は飛滝の弟役。しかしその出演条件は、飛滝とともに、役どおりの“兄弟”として、クランクインするまでの間を過ごすというものでした。
気持ち的に“兄弟だと思え”と言うのではなく、それぞれの役、関係になりきって、つまり演技状態のままで生活することを強いられるんですね。
そして依頼を受けた音彦は、飛滝とともに“兄弟”として暮らすことになります。音彦が先にマンションに入った一週間後の夜、飛滝がそこに現れる。
現われた飛滝は玄関を入った瞬間から、“兄”となっていました。
飛滝は完全にその役になりきってしまうと言われ、「天才俳優」として有名な男です。しかし、あまりにも役に入り込んでしまうため、前の映画でストーカーを演じた際、相手役の女性を私生活でもストーカーし、また撮影時、女性を本気で殺しかけてしまっていました。
その飛滝が一瞬でさえ素の顔を見せない“兄”となって、私生活であるはずの二人きりのマンションの中、音彦に対峙するわけです。
“兄”は、“弟”に自分のせいで怪我を負わせてしまい、“弟”は片足が不自由になってしまっています。そんな“弟”を“兄”は盲愛し、ひきこもりがちな“弟”は“兄”だけを世界の全てと生きている。
音彦はごく普通の今時の若者で、尋常とは思えない飛滝の行動(演技)に戸惑います。“兄”の“弟”への接し方は近親相姦の匂いさえするんですからね。お風呂には一緒に入ってきて身体を全て洗ってくれ、夜は抱きしめて眠る。身体や頬に触れたりと接触も過剰。
そしてとうとうある夜、二人は一線を越えてしまう。
演技なのか本気なのか境界線はわからず戸惑う音彦ですが、読んでる方にもこの不思議な飛滝はなかなか掴みにくかったです。
最初、飛滝は「壊れた人」なのかなと思ったんですよ。でも読んでいるうちに「欠けた人」なのだと思いました。
役になりきることだけに自分の存在価値を見出してきて、「素の顔」がなくなってしまった。本当の自分を見失ってしまい、普段どうしていたらいいのかわからなくなってしまった人。
「顔のない男」というのは、どんな顔にもなれるという役者としての素晴らしさを思わせますが、飛滝の「素の顔」の意味もあるのかもしれないですね。
でも、完全に自分を失くしているわけではなく、音彦との関係で少しずつその完璧さにほころびが見えるのが、ホッとさせられました。
二巻目「見知らぬ男」では、音彦が刑事、飛滝が殺人者として対峙させられることになります。
私生活でも役になりきってしまう飛滝が『殺人者』などを演じることになったらどうなってしまうのか。そして敵対する刑事役である音彦に対しては?本当に音彦を憎むようになってしまうのでは?
しかし、飛滝は決して「役者バカ」ではなく、とても聡い頭のいい男なので上手く自分をコントロールしていました。そんなふうに“演じる”ことだけでなく、音彦との関係をちゃんと考えるようになったのは、音彦の影響もあるのかな。それでも“演じる”ことから離れたわけではないところが、やはり飛滝なんですけど。
この中ではなんと演技ではなく涙も見せるようになります。
三巻目「時のない男」はシリーズ中これだけお話が二編入っています。
「愛のない男」では飛滝の素顔が更に表に出るようになります。飛滝が自分自身の感情を表に出すと“無表情”になるというのがシリーズ中時々出てきて、「自分のない」飛滝がそういうところからも伝わってくるんですが、この中では怯えてみたり怒ってみたり苛々してみたりと、それでも普通の人に比べたら表に見えるのはわずかな変化なんですが、素の気持ちが出るようになってくる。
演技に関してはプロ中のプロで、「天才俳優」と言われるのは才能だけでなく努力の人でもあり、俳優として本当に稀有な存在なわけですが、駄目なものは駄目、わからないものはわからないと、欠けていてアンバランスな面もだんだん見えてきます。しかしそういうところから、どんどん飛滝が人間臭く見えてくる。
意外に可愛らしい飛滝の素顔が、のぞくようになります。
「時のない男」は、飛滝がイギリスのBBCとハリウッド共作のドラマに出るため三ヶ月の間、イギリスに行ってしまいます。飛滝の役は時代で言えば幕末から明治あたりの「男爵」。
三ヶ月も離れて異国の地で私生活まで「男爵」となって、飛滝は音彦のことを覚えていられるのか?終わったとき、ちゃんと元に戻れるんだろうか。
不安になった音彦は、飛滝に黙ってイギリスへ飛んでしまいます。
相変わらず私生活から役になりきって生活している飛滝の邪魔にならないように、混乱させないように、隠れて見守ろうとする音彦ですが、それで済むわけはなく。
飛滝に見つかってしまいますが、飛滝は「男爵」のまま音彦に接します。音彦も飛滝の「男爵」に合わせるようにする。
二人でダンスを踊るシーンが好きでした。ここで見える飛滝の素が、好き。飛滝は「音彦」のことだけは、ちゃんとわかっているんですね。
そして冒頭なんですけど、初めて飛滝が「愛してる」って言ってましたね!感激しましたわ(笑)
音彦が飛滝を現実に繋ぎとめ、本当の飛滝の隙間を埋めてくれる存在となる。
音彦がとってもいいですね。普通の感覚の若者なんだけど、その普通さ前向きさがとてもいい。意外と冷静だし、飛滝の内面によく気がついて理解していますよね。そういう音彦視点だから、読んでいる方も変に不安にならずにすむ。
音彦は飛滝とは正反対に、自分の気持ちをストレートに口にも顔にも出しますよね。そういうところが飛滝にとって凄くいいんでしょうね。
飛滝は音彦をベタベタに甘やかして可愛がっています。この二人って必ずお風呂に一緒に入るんですよね。そして飛滝は音彦の全身を洗ってあげる。
甘やかして、可愛がって、甘えられて、我儘言われることが嬉しい。自分のして欲しかったことをしてあげて、音彦の素直な我儘に答えることに喜びを感じている。
そんな飛滝の内面が、彼の生い立ちを思うと寂しいんだけど、音彦がそれを埋めてあげられるというのが、いいですよね。
飛滝が凄く素敵でした。私も飛滝に取り付かれたみたい?(笑)
北畠さんのイラストもすごくいいです。
カッコいいんですよね~、飛滝が。
特に一、二巻、カラーイラストの飛滝が素敵過ぎて眩暈がしました。
ホントに面白かったです。
お勧めしてくださってありがとうございました。
天才俳優と新人(三年目)俳優。
シリーズで三冊出ています。
気になってたけど未読のままでしたが、お勧め戴いて遅まきながら読んでみました。
結論から先にいうと、たいへん面白かったです。
飛滝にちょっと囚われてしまって何とも言えない不思議な気持ちのまま寝たら、その気持ちのまま妙な夢を見てしまったくらいのめり込んで読みました(笑)。
ちょっと長くなりますが、一巻を中心に、三巻まとめて感想書いてしまいます。
シリーズ一作目「顔のない男」のお話は。
デビューして三年目、泣かず飛ばずの俳優・音彦は、ある日、天才俳優と言われる飛滝惣三郎の相手役として出演依頼を受けます。音彦の役は飛滝の弟役。しかしその出演条件は、飛滝とともに、役どおりの“兄弟”として、クランクインするまでの間を過ごすというものでした。
気持ち的に“兄弟だと思え”と言うのではなく、それぞれの役、関係になりきって、つまり演技状態のままで生活することを強いられるんですね。
そして依頼を受けた音彦は、飛滝とともに“兄弟”として暮らすことになります。音彦が先にマンションに入った一週間後の夜、飛滝がそこに現れる。
現われた飛滝は玄関を入った瞬間から、“兄”となっていました。
飛滝は完全にその役になりきってしまうと言われ、「天才俳優」として有名な男です。しかし、あまりにも役に入り込んでしまうため、前の映画でストーカーを演じた際、相手役の女性を私生活でもストーカーし、また撮影時、女性を本気で殺しかけてしまっていました。
その飛滝が一瞬でさえ素の顔を見せない“兄”となって、私生活であるはずの二人きりのマンションの中、音彦に対峙するわけです。
“兄”は、“弟”に自分のせいで怪我を負わせてしまい、“弟”は片足が不自由になってしまっています。そんな“弟”を“兄”は盲愛し、ひきこもりがちな“弟”は“兄”だけを世界の全てと生きている。
音彦はごく普通の今時の若者で、尋常とは思えない飛滝の行動(演技)に戸惑います。“兄”の“弟”への接し方は近親相姦の匂いさえするんですからね。お風呂には一緒に入ってきて身体を全て洗ってくれ、夜は抱きしめて眠る。身体や頬に触れたりと接触も過剰。
そしてとうとうある夜、二人は一線を越えてしまう。
演技なのか本気なのか境界線はわからず戸惑う音彦ですが、読んでる方にもこの不思議な飛滝はなかなか掴みにくかったです。
最初、飛滝は「壊れた人」なのかなと思ったんですよ。でも読んでいるうちに「欠けた人」なのだと思いました。
役になりきることだけに自分の存在価値を見出してきて、「素の顔」がなくなってしまった。本当の自分を見失ってしまい、普段どうしていたらいいのかわからなくなってしまった人。
「顔のない男」というのは、どんな顔にもなれるという役者としての素晴らしさを思わせますが、飛滝の「素の顔」の意味もあるのかもしれないですね。
でも、完全に自分を失くしているわけではなく、音彦との関係で少しずつその完璧さにほころびが見えるのが、ホッとさせられました。
二巻目「見知らぬ男」では、音彦が刑事、飛滝が殺人者として対峙させられることになります。
私生活でも役になりきってしまう飛滝が『殺人者』などを演じることになったらどうなってしまうのか。そして敵対する刑事役である音彦に対しては?本当に音彦を憎むようになってしまうのでは?
しかし、飛滝は決して「役者バカ」ではなく、とても聡い頭のいい男なので上手く自分をコントロールしていました。そんなふうに“演じる”ことだけでなく、音彦との関係をちゃんと考えるようになったのは、音彦の影響もあるのかな。それでも“演じる”ことから離れたわけではないところが、やはり飛滝なんですけど。
この中ではなんと演技ではなく涙も見せるようになります。
三巻目「時のない男」はシリーズ中これだけお話が二編入っています。
「愛のない男」では飛滝の素顔が更に表に出るようになります。飛滝が自分自身の感情を表に出すと“無表情”になるというのがシリーズ中時々出てきて、「自分のない」飛滝がそういうところからも伝わってくるんですが、この中では怯えてみたり怒ってみたり苛々してみたりと、それでも普通の人に比べたら表に見えるのはわずかな変化なんですが、素の気持ちが出るようになってくる。
演技に関してはプロ中のプロで、「天才俳優」と言われるのは才能だけでなく努力の人でもあり、俳優として本当に稀有な存在なわけですが、駄目なものは駄目、わからないものはわからないと、欠けていてアンバランスな面もだんだん見えてきます。しかしそういうところから、どんどん飛滝が人間臭く見えてくる。
意外に可愛らしい飛滝の素顔が、のぞくようになります。
「時のない男」は、飛滝がイギリスのBBCとハリウッド共作のドラマに出るため三ヶ月の間、イギリスに行ってしまいます。飛滝の役は時代で言えば幕末から明治あたりの「男爵」。
三ヶ月も離れて異国の地で私生活まで「男爵」となって、飛滝は音彦のことを覚えていられるのか?終わったとき、ちゃんと元に戻れるんだろうか。
不安になった音彦は、飛滝に黙ってイギリスへ飛んでしまいます。
相変わらず私生活から役になりきって生活している飛滝の邪魔にならないように、混乱させないように、隠れて見守ろうとする音彦ですが、それで済むわけはなく。
飛滝に見つかってしまいますが、飛滝は「男爵」のまま音彦に接します。音彦も飛滝の「男爵」に合わせるようにする。
二人でダンスを踊るシーンが好きでした。ここで見える飛滝の素が、好き。飛滝は「音彦」のことだけは、ちゃんとわかっているんですね。
そして冒頭なんですけど、初めて飛滝が「愛してる」って言ってましたね!感激しましたわ(笑)
音彦が飛滝を現実に繋ぎとめ、本当の飛滝の隙間を埋めてくれる存在となる。
音彦がとってもいいですね。普通の感覚の若者なんだけど、その普通さ前向きさがとてもいい。意外と冷静だし、飛滝の内面によく気がついて理解していますよね。そういう音彦視点だから、読んでいる方も変に不安にならずにすむ。
音彦は飛滝とは正反対に、自分の気持ちをストレートに口にも顔にも出しますよね。そういうところが飛滝にとって凄くいいんでしょうね。
飛滝は音彦をベタベタに甘やかして可愛がっています。この二人って必ずお風呂に一緒に入るんですよね。そして飛滝は音彦の全身を洗ってあげる。
甘やかして、可愛がって、甘えられて、我儘言われることが嬉しい。自分のして欲しかったことをしてあげて、音彦の素直な我儘に答えることに喜びを感じている。
そんな飛滝の内面が、彼の生い立ちを思うと寂しいんだけど、音彦がそれを埋めてあげられるというのが、いいですよね。
飛滝が凄く素敵でした。私も飛滝に取り付かれたみたい?(笑)
北畠さんのイラストもすごくいいです。
カッコいいんですよね~、飛滝が。
特に一、二巻、カラーイラストの飛滝が素敵過ぎて眩暈がしました。
ホントに面白かったです。
お勧めしてくださってありがとうございました。
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