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鏡の中の九月 (新書館ディアプラス文庫 164)
榊 花月著 / 木下けい子イラスト
新書館
ディアプラス文庫(2007/07)


本屋でバイトをしている大学生の秋雨は、いつも顔を合わせる取次営業の生方が苦手だった。なのに飲み会で酔っ払った時、孤独だった子供時代のことをつい話してしまう。愛想の良さは業務用、実は俺様の生方だったが、意外にも秋雨に共感を示してくれた。そして秋雨が好きだと言ったのだ。
誰からも必要とされたことなどなく、彼の言葉も自分の感情も信じられない秋雨だったが……。
生方秀行(うぶかたひでゆき)×高野秋雨(たかのしゅう・20歳)
「鏡の中の九月」
「十一月は恋人の時刻」の二編。

秋雨には心臓の悪い弟・春海(はるみ)がいます。
そのため両親はずっと春海につきっきりでした。急に具合が悪くなった春海をつれて両親が病院に行ってしまい、ごく幼い頃から、一人で留守番をしてカップラーメンを食べるということも珍しくはなかったのです。
その経験は、秋雨に、自分は弟より省みられないという思いを植えつけました。そのせいか、人に大事にされない、必要とされないという気持が根付いてしまって、ネガティブで後ろ向きでなかなか人に心を開けない性格です。
そんな秋雨が、アルバイト先の本屋で、取次営業の生方と知り合います。自分とは正反対に、明るく人当たり良く爽やかな生方に、秋雨は苦手意識を感じていましたが、生方も参加した飲み会で飲みすぎて心の内をつい生方にもらしてしまって以来、生方は秋雨によく話しかけてくるようになります。
生方に反発しながらも、心では気になってしかたがない秋雨。
そんな時、生方に「好きだ」と言われてしまうのですが、自分に自信がない秋雨は、生方が信じられません…。


最初は秋雨がどうしようもなく拗ねていじけている人としか思えなくて、同情や共感を感じるのは難しかったです。生方が何をしても何を言っても全て疑ってかかり、そのくせかまってもらえないと拗ねたりして。
秋雨の気持はよくわかるんですが、ちょっとネガティブ過ぎなんですね。
でも、だんだん、子供時代に愛情の足りない日々を過ごしたということは、想像するより子供の成長にとっては重大なことだよなぁと思えるようになって。
自分の存在意義を感じられないって、人としては辛いことだと、全てとは言えないまでも理解できるようになってきました。

弟の春海は、病弱ながらも一生懸命勉強したり本を読んだり、明るく素直で兄の秋雨を慕うとてもいい子なんですね。でも、この弟のせいで親の愛情を実感できずに育った秋雨は、弟のことさえ憎んでいるかのようなんです。
健康で自由にどこにでもいける秋雨に比べて、春海は学校にさえ行かれない身体で自由に何かをすることは全くできません。そんな自分より春海の方が恵まれていると思ってしまうのは、ある意味贅沢とも言えると思います。
けれど、では親の愛情がなくても健康だから我慢しろというのも子供には酷だなぁと思う。春海のくったくのない明るさや可愛らしさは、秋雨にとっては何も考えてないように見えてしまうでしょうね。
両親は決して秋雨に愛情がないわけではないんですよ。家族に命に関わる病の人がいたら、関心や生活はその人中心になってしまうのはこれまたいたし方ないこと。
誰が悪いわけではないんだけど、この家族はみんながちょっとずつ自分中心なんじゃないかとそんなことを感じてました。

秋雨と生方の恋愛面はたいした波風もなく、秋雨の後ろ向きで前に進まないだけなので、どうもその家庭や考え方ばかりに囚われて読んでしまったみたいです。
生方は「俺様」なんて言われていますけど、営業と素の顔が違うのは当たり前だし、普通の飄々とした大人でしたよ(笑) 秋雨もネガティブな割には湿っぽくないので、普通の拗ねた子供(笑)という感じ。
この本の中では、問題となった両親とのちゃんとした和解とかはないんですが、秋雨が大人になるにつれて、もっと視野が広がればいろんな見方ができるようになるだろうし、親の気持、自分の気持ち、弟の気持もそれぞれ客観的に見ることがもっとできるようになるでしょう。
それが成長だし、生方がそばにいることは、大いに手助けになっていくんじゃないかな。
まだ20歳だしね。

それほど重くなく、ちょっと切ないけど温かさも感じさせるお話でした。
秋雨はまだまだこれから・・・という感じで。
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