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優しいプライド
砂原 糖子著 / 門地かおりイラスト
オークラ出版
アイスノベルズ(2002.1)


志上を撥ねた男は、中学時代の同級生、保高だった。十年ぶりの再会は神のいらずらなのか―。
事故で右手が使えなくなった彼を気遣い、部屋に来い、という保高の言葉に甘えてやっかいになる志上に対し、保高はまるで恋人に対するように優しく甘い。
しかし生真面目な保高に反発を覚える志上は…。
保高慎二(ほだかしんじ・25歳)×志上里利(しがみさとり・25歳)
研修医とホスト

「《最近とっても気になる砂原さんの過去本も読んでみよう》企画第三弾(不定期)」はコチラを。


高校を中退し、家を飛び出した志上は、今はホストとして働いています。
ある晩、客の女性と過ごしたホテルを出たあと、タクシーを拾おうと道路に出たところを、志上はやって来た車に撥ねられてしまいます。

目覚めた時は病院のベッドの上。自分を覗き込む男は「君を撥ねた」といい、この病院の研修医であると話します。そして「覚えてないかな」と。
志上は男の顔を見て、自分を撥ねたその男は中学時代の同級生の保高慎二であることを思い出します。

志上は、言ってみれば最低の男です。
ホストとして愛想をふりまきながら、頭の中では女を金としか思っていません。NO.1ホストとしての給料の他に、貢がせた金で高級マンションに暮らし、高級車を乗り回し、高い服を着る。人など信じないし愛も信じない。「金」さえあればなんでも買える、なんでも出来ると思っているし、事実、彼の人生は金の力でそこまで押し上げられてきました。

どうしてこんなふうになったのかは、彼の生い立ちに原因があります。生れ落ちたと同時に負わされたその重荷はあまりに深刻で痛いので、驚きました。考えただけでも、背負うにはあまりに重過ぎる。
祝福されることのない命を持って生まれ、それを幼いうちから感じていた志上の内面がどのように歪んでいくかは想像するに余りあるほどですが、その重荷は非情なことに、何の咎もないはずの彼の内面だけでなく、外見にも誰が見てもわかるように罪の烙印を押されていました。
そのため小学校も中学校でも、志上はいじめられた子供でした。

そんな中、中学の時に唯一、自分と親しくしてくれたのが保高でした。保高はクラス委員長に選ばれるような、いわゆる優等生です。真面目で誠実で曲がったことが嫌いで、友人がみな志上を蔑んでも、保高はそんな空気に同調しようとしなかった。
しかし、保高の子供であったがゆえの潔癖さ、正義感、そして志上への特別な想いが、ある時大勢のクラスメイトたちの前で、志上のプライドを傷つけるという失態を侵してしまいます。
それ以来、志上の心には保高への憎しみが生まれます。保高を避け続けたまま中学を卒業し、二度と会うこともなく、これが10年ぶりの再会でした。

志上の手の怪我を気づかい、保高は自分の古くて狭いアパートに志上を同居させ面倒を見ます。
研修医の保高はそう金回りも良くはなく、着る物も金をかけずに着まわし、細々と自炊をして生活していました。事故で安い国産車のボンネットがへこんでしまったのに、直す余裕もない。今の志上は金に困ることはなく、保高とは雲泥の差の生活をしていて、10年経っても性格も相変わらず生真面目で温厚で面白みのない保高を、志上は過去への反発心もあって最初は馬鹿にしています。
コツコツと真面目に働き、彼女がいるのに手を出したこともなく、25歳で童貞。高級レストランや料亭で食事をすることに慣れた志上に、自炊したしょぼい料理を用意し、志上が見向きもせずに残しても、「怪我した手じゃ箸は食べにくかったよな」と、次にはスプーンで食べられるカレーを用意するような、正直で誠実で優しい男。
価値観も性格もまったく正反対で、志上には保高の優しさは偽善にしか思えない。もとより「優しさ」など信じるような心も持ち合わせていない志上は、そんな保高に苛つき、従順に風呂の介添えをする保高に、「やってくれよ」と自慰の手伝いを強要する。

実は保高は中学時代から志上のことが好きで…そう考えると甲斐甲斐しく志上につくす保高の誠実さや純情ぶりは微笑ましくもあるんですが…「微笑ましい」なんて言ってられないくらいに、このお話はシリアスなのですね。

それでもやがてそんな二人の気持ちは通じ合っていくんですが、非常にゆっくりとした展開で、丹念に気持ちが書き込まれていて、ペースとしてはちょっとじれったいくらいかもしれません。それだけ丁寧だということだと思いますが。
二人がお互いの気持ちを知るまでに、そして本当のハッピーエンドになるまでに、ちょっと眉を顰めたくなるような出来事が起きるんですよね。だから余計にじれったく感じるんだと思います。

その間の志上の気持ちの移り変わりはしっかりと伝わってきますし、どこまで行っても誠実で真っ直ぐな保高気持ちもよくわかるので、結構辛いです。
やっと気持ちが通じ合っても、それまでの歪は取り返せないかと思うところまできていて、二人は離れてしまうし。
そのあとも切ないわ、キツイわで(笑)。
女性が何人か出てくるんですけど、ホントに参るんですよ、彼女たち。いろいろあるだろうけど、そっちにまで言及してもしょうがないので省きますが、ホントにイヤな面ばっかりで辛い(笑)

ただ志上は、その痛々しい身の上にも関わらず、その環境に負けてしまうのではなく、跳ね返していこうとするタイプなんですよね。ホストになり女を食いものにして…と、やってたことは最低だけれど、気持ちは上に行こうとした結果だったと思う。
保高を失って、何もかも失くして、大泣きに泣いて、翌日太陽の光を浴びて、浮上することの出来る心って清々しくさえある。

第一弾、第二弾はクスッと笑えるラブコメディでしたが今回のこれはシリアスで切ないお話でした。ちょっとイタさも入ってます。
恋愛中に感じる様々な微妙な揺れを書くのが上手いな~とは常々思っていて、このかたの心理描写はスッと入ってくるので好きだったんですが、こんな切ない表現もできるのか、と感心しました。
派手ではないのに、時々、胸に刺さるような表現があるんですよ。思わず「上手い!」って思ってしまう。

ちゃんとハッピーエンドなので、もし、お手に取ることがあれば、それは安心して読んで下さい。
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