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檻の外
木原 音瀬著
ホリーノベルス(2006.5)

イラスト/草間さかえ

別れから六年経ったある日、堂野崇文は、自宅近くの公園で喜田川圭に再会した。
喜田川は「ずっと捜していた。一緒に暮らしたい」と告白する。六年前とまったく変わらぬ一途な想いに堂野の心は乱れ、住所を教えてしまう。
が、すでに堂野には妻も子供もいて…。
喜田川圭(きたがわけい)×堂野崇文(どうのたかふみ)

「箱の中」の続編です。

「檻の外」
「雨の日」
「なつやすみ」の三編収録されており、
「檻の外」では喜田川・34歳、堂野・36歳
「なつやすみ」では喜田川・44歳、堂野46歳になっていて、ラストには喜田川・50代後半、そうすると堂野は60くらいになると思います。

「檻の外」は、二人の再会から始まります。
堂野を探し続けた喜田川は、偶然公園で堂野と再会します。全身で喜びを顕にする喜田川でしたが、堂野は既に結婚し4歳になる娘もいました。
それを知った喜田川ですが、喜田川は堂野の近所に引越してきてしまいます。
「君と、前と同じようにはいられないんだ」
「あんたに家族がいたっていいだろ。
同じ雨の降る場所にいるって思うぐらいいいだろ。
顔が見たいって思う時に、歩いていける場所にいたっていいだろ」
ただ傍にいたいという男に堂野の心は揺さぶられます。

友人として一生つきあいたいと思っているのは確かですが、では喜田川の想いを受け止めて、自分も同じように喜田川を愛し、一生共にできるかどうかといえば、そこまでの決心は堂野にはできません。堂野は至って常識的で普通の男であるからです。
しかし喜田川に対して間違いなく「情」はある。

堂野は普通の男と言いましたが、読み終わってみると普通どころではなく、大変に優しい思いやりに溢れた男です。これは全編を通して感じましたが、彼の優しさは「普通」どころではない。

喜田川はやがて堂野の家に出入りし、堂野の娘とも仲良くなり、妻からは「夫の友人」として家に受け入れられるようになります。
愛する男の家族の中にいて、その暖かさを感じながら、喜田川は自分だけが色の違う風船だと思います。

堂野がいれば他には何もいらないのに、喜田川は、ただ傍にいて堂野の家庭を見つめ、一人きりになると泣く。
堂野の家庭を壊そうとはしない。
「二人目をつくる気になったら教えろよ」
「どうして?」
「死ぬから。死んだらあんたんちの子供に生まれ変われるかもしれない」
「あんたんちの子供になりたい。そしたらずっと一緒にいられるんだろ。」
「あんたんちは暖かい感じがする。家の中の匂いも好きだ。けど、時間になったら俺は帰らないといけない。あそこに遊びにいくのはいいけど、ずっといちゃいけない場所なんだろ。」
「好きだって思う気持ちは、どうやったら消えるんだ?」
この「檻の中」では喜田川のセリフの一つ一つに、胸が詰まりっぱなしでした。素直な気持ちを声を荒げるでもなく訥々と口にするだけなのに、喜田川の一言一言は本当に切なく、想いが零れそうにつまっていて、どれも忘れられない。

やがて、喜田川に懐き、喜田川を好きだと言い、喜田川のお嫁さんになるという4歳の娘を「もし16になっても気が変わっていなかったら、俺にくれ」と喜田川は言います。喜田川の人生で初めて自分を「好き」と言い慕ってくれたのが4歳の穂花(ほのか)でした。自分の愛する男が家庭を持ち、そして生まれた娘なのに、喜田川にとっての穂花の存在は、特別なものなんですね。堂野が、自分のことは忘れ、家庭を作って幸せになれというのなら、初めて好きだと言ってくれた穂花と家庭を作りたい。

しかし、この後、たいへんな悲劇が起こります。
本当に辛い。
普通の女である妻の、ちょっとした出来心の末のこの結果は大きすぎる。それはあまりに重過ぎる「罰」だと思いますし、私にも子供がいるから「同情」や「他人事」では片づけられない思いがあります。
しかしそれは別として彼女の言い分は私には甘えにしか思えない。何が幸せなのか、何が一番大事なのか、本当にわからなかったとしたら、彼女は成長していない愚かなただの子供だと思う。しかし堂野の妻のように軽い気持ちで壁を越えてしまう人は、実は現実でも珍しいことではないんですよね。
「箱の中」の『脆弱な詐欺師』でもそうでしたが、「普通の男」「普通の女」が普通でない場所へ行ってしまうことのなんて簡単なことか。

起きた事件はあまりに大きく、その後も妻の裏切り、身勝手さに、堂野の妻への愛情は冷めてしまいます。
堂野は助けを求めるように喜田川の元へいく。

そして。
「僕は、僕だけだと言ってくれる人の気持ちに、応えたい」
堂野は家を出て、喜田川と暮らし始め、妻とは離婚します。

「雨の日」は、それからそんなに月日は経っていないと思います。
静かで優しい愛の通う二人の生活。
ごく短いお話ですが、ラストの一文、
「夢のように幸せだと、言葉に尽くせないほど幸せだと、誰かに伝えたい言葉が溢れ~」喜田川は涙を零します。
喜田川の生い立ちと半生を思ったら、これだけで、全てが伝わってきます。

「なつやすみ」は視点が第三者へと変わります。
堂野の戸籍上の息子・尚(なお)の視点。
夏休みに、父を訪ねてきた尚が見た、お父さん・崇文と、おじさん・喜田川。

喜田川が目を見張るほど変わっています。情緒的に大成長していて、尚への接し方は素晴らしい。
隙間だらけだった喜田川が、堂野と出会い堂野を愛して、そばにいるだけでその隙間が埋まっていく。「檻の外」から10年程たっていますが、その間に喜田川が堂野から貰ったものは何て大きかったんでしょう。

ラストでは、二人とも60歳ほどになります。
このお話は喜田川の人生のお話でした。
喜田川の人生の半分は、空虚で悲劇で筆舌に尽くしがたい哀しいものでしたが、堂野と出会ってからの人生の残りは、彼に心を取り戻させ、満たされる幸せなものだったと思います。
喜田川が変わったことが、その証だと思います。

「死ぬまで一緒にいてくれ」
喜田川の願いは叶いましたね。
喜田川はその時何を思っていたかな。本当はもっと…(泣)
ラストではやはり泣いてしまったけれど、いろんな思いはあるけれど、ハッピーエンドだと言いたい。
これは、読んで本当に良かった。

イラストも、このお話に合わない絵描きさんは山ほど思い浮かぶけれど、合うのは草間さんしか浮かびませんね。さすがの人選です。


好みというのはそれぞれですので、いつも意識して「お勧め」という言葉は使わないようにしているんですが、今回は、たとえゴリ押しであろうと使います。
「お勧め!」です。
是非、読んで欲しい。


※「檻の外」についている応募用紙と300円の小為替を送ると、こぼれたエピソードを集めた小冊子がもらえます。
締め切りは7/23まで。コピー不可。
もちろん、私はもう送りました(笑)

しかし発送は9月以降。待ち遠し過ぎる。
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