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箱の中
木原 音瀬著
蒼竜社/ホリーノベルズ (2006.3)

イラスト/草間さかえ

堂野崇文は痴漢と間違われて逮捕されるが、冤罪を訴え最高裁まで争ったため、実刑判決を受けてしまう。
入れられた雑居房は、喜田川圭や芝、柿崎、三橋といった殺人や詐欺を犯した癖のある男たちと一緒で、堂野にはとうてい馴染めなかった。
そんな中、「自分も冤罪だ」という三橋に堂野は心を開くようになるが…。
喜田川圭(きたがわけい・28歳)×堂野崇文(どうのたかふみ・30歳)
時が経ちますので年齢はそれぞれ6歳増えます。

「箱の中」
「脆弱な詐欺師」の二編収録されています。

心構えができたら読もうと思っているうちに危うく積読になりかけていたら、先日続編が発売されてしまったので急いで読みました。
これだけでは完結していません。
明日は続編「檻の外」と続けて感想書きますね。


市役所に勤めていた堂野は、ある日痴漢に間違えられ警察に突き出されます。
どんなに否定しても受け入れられず無罪を求めて最高裁まで争いましたが結果は有罪の実刑判決となり、拘留期間を除いた十ヶ月を服役することになります。

堂野はごく普通の男。
極々真っ当に生き、学生時代はボランティア活動もし、公務員となって真面目に働いてきた。
なのにある日自分には身に覚えのない疑いをかけられ、どんなに否定しても適わず有罪となり前科一犯がつき仕事も首になる。自分だけでなく両親、妹までもが色眼鏡で見られ、1年前、やっとローンを払い終えたと父が喜んでいた家を売り引っ越さねばならなくなり、妹の縁談は破談となってしまう。
自分はなにもしていないのに。自分のせいで。
「冤罪」という理不尽な状況は堂野自身だけでなく家族の人生さえ変えてしまい、あげく犯罪者だらけの場所で唯一同じ立場だと心を許した三橋(みつはし)に裏切られ、両親は三百万円を騙し取られてしまいます。
堂野にふりかかる重荷はとにかく容赦なく、やがて「死にたい」とまで思うようになっていく過程は読むのが辛かったです。

辛さのあまり、就寝後布団の中で堪えきれずに泣く堂野の頭を黙って撫でてくれたのが喜田川でした。
喜田川は同室の28歳の男で、無口で雑居房の中でもほとんど話をしません。しかし翌日堂野が喜田川に「昨夜はありがとう」と礼を言ったことから、その後喜田川は堂野に何かと親切にしてくれるようになります。

喜田川は幼少期、母から育児を放棄されていて、食事もたまにしか与えられず、言葉を忘れるほどずっと一人きりで部屋に置き去りにされていました。その後、預けられた親戚からも捨てられた後は施設で育ちました。中学卒業後就職しましたが、19の時再会した母に度々金を無心されたあげく利用され、「殺人犯」となって服役しています。この件は本当に喜田川が殺したのかどうかわからないんですよね。もしかすると殺したのは母で、喜田川は身代わりだったかもしれない。でも、喜田川は自分が殺していても、実の母が自分に罪を押し付けていたとしても、どちらでもいいんだと思う。
ごく普通の生活さえ経験したことのない喜田川は情緒的な部分がきちんと発達できなかったようです。

しかし堂野に「ありがとう」と言われた時、なんとなく嬉しくなった。もっと「ありがとう」と言って欲しい。だから堂野の喜ぶことをもっとしてやる。だから「ありがとう」と言え。

「あんたにありがとうって言われると気持ちいいんだよ。
だからさ、俺にもっとありがとうって言ってよ。
あんたの喜ぶようなこともっとしてやるからさ」

親切や思いやりは「言葉」のためにあるのではなく、君は間違ってるよと言う堂野にも「気持ちなんかどうでもいいから」という喜田川。
「俺は自動販売機にちゃんと金を入れているだろう」。
「ありがとう」の言葉が欲しいから親切にする。
喜田川にとってそれはジュースが欲しくてお金を入れるのと同次元のことだったんですね。
まるで人間関係を機械か何かのようにしか考えられない喜田川に、堂野は「情」を教えようとします。
友達になりたいんだよ。何もしなくていい。そばにいるだけでいい。しかし喜田川にはなかなか理解できません。
しかし堂野が持つ普通の感覚は少しずつ喜田川の心を開いていきます。

二人で名前を教えあうシーンがあるんですが、喜田川の名前を「圭って可愛い名前だね」と堂野が褒めると、喜田川は、そう呼ばれたことがないから知らない人の名前みたいだと言うんですね。名前をつけたのは親であるはずなのに、親にさえ呼ばれたことのない名前を呼ばれ「あんたが俺につけた名前みたい」と喜田川は言います。
このシーンは凄く心に残りました。
堂野によってまるで喜田川がその瞬間に生まれたように思えるんですよ。
「ありがとう」と言われたい、名前を呼ばれたい、褒められたい、そんなことに心が揺れるなんて、それまでの喜田川の人生がいったいどんなものだったのか想像すると胸が痛みます。
そんな些細な関係さえ喜田川の周りにはなかった。だからこそ堂野との関係が喜田川の中に根を張り、激しい執着となったんだと思います。
堂野に執着する喜田川はまるで子供の様です。

刑務所という舞台をを容赦なく書いていますし、人間の汚さ弱さズルさも全部見せてありますので辛い部分も多々あります。
けれど前にも書いたような気がするけれど、そういう「負」ばかりの中に優しさや愛情が混じることで、その明るさがより前面に出てくるような気がします。
たとえば喜田川の堂野に対する想いは妄執ともいえるんだけど、それが汚れた世界の中にあることで、ただひとつの純真な思い、純粋な人間のように思えてくるんですね。

喜田川の子供のような愛情表現は、可愛らしいし微笑ましくも感じられました。舞台が舞台なだけに呑気に「萌え~」と言っていられないんですけど(笑)
しかし28になる男が手を繋ぎたがったり、膝枕をして欲しがったり、布団から顔を出してニコッと笑う姿は「可愛い」としか言い用がない。そしてまるで育ち直しているかのようなその姿に哀しい愛しさも覚えます。

「脆弱な詐欺師」は、堂野の出所後、1年遅れで出所した喜田川が堂野の行方を捜す話になります。
あれから6年経っており、喜田川は34、堂野は36になっている。
しかし視点は喜田川が堂野の捜索を以来した探偵・大江(おおえ)です。

大江から見た喜田川、堂野が語られますが、堂野は捜索中でほとんど出てこないので彼の心中はわからない。
大江自身のことも絡んできます。というか大江側の事情から二人を見るという感じ。
大江が喜田川を騙す悪役ではあるんですが、ズルイいやつと言うよりはただ哀れな男です。
そしてここでもやはり喜田川の想いだけが真っ直ぐで穢れがないように見える。
何よりも強く、光となるものは、こんな荒んだお話なのにやはり「愛情」なんですよね。どんなに汚い面を書いても、優しさや愛情が救いになっている。
そして一番純粋で穢れがないのは「殺人」で服役した喜田川なのである。

とても心に残るお話でした。
語りたいシーンもいっぱいあるんだけど、これだけで相当長くなっちゃったので泣く泣くやめときます(笑) 家の見取り図を描くとことか、喜田川が住所を握り締めて…とか。

大江が堂野の居場所を突き止め、喜田川が駆け出すところで二人のお話は終わっています。しかし堂野は出所後結婚し子供を儲けている。
続きは「檻の外」になります。
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