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海に還ろう
剛 しいら著
アイノベルズ(2006.4)
通常24時間以内に発送します。
イラスト/金ひかる

青海は4歳の時、神秘的な祭で有名な海辺の町に引っ越してきた。
初めて出来た友達は野生児みたいな男の子・勇作。それから勇作は青海にとって世界のすべてになった。
勇作がいれば他には何もいらない―。青海の幼い想いはいつしか秘密の恋へと変わっていった。
けれど、美しく成長した青海が祭の花形「稚児役」に選ばれた事から、その身に忌わしい出来事が降りかかり…。
遠島勇作(とおじまゆうさく・23歳)×磯崎青海(いそざきおうみ・23歳)

4歳で初めて出会ったとき恋しちゃったんですね。
“誰も信じてくれないだろう”青海はそう語り、確かにそれは思い込み過ぎだろうと思ったけど、読み終わった今では本当だと思えますね。
恋とか愛とか、そんなもの何も知らないうちに、二人の間にはそれが生まれちゃった。

お話は現在、青海が東京から勇作のいる海辺の町に帰るところから始まります。そして現在と過去を行き来しつつ、勇作と青海の出逢いから現在が語られている。

4歳で出会った時恋に落ちたとは言うものの、もちろんそれが「恋」だなんて自覚していなかった。
ただ勇作が大好きでいつも一緒に遊びたくて。青海の小さな世界は勇作でいっぱいでそれが全てだった。勇作も同じだったんでしょう。保育園に上がっても小学生になっても、さらに成長してもそれは変わらなかった。
しかし成長とともに、名もない幼い想いはもっと確かなものへと変わっていきます。「好き」の意味がどういうものかわかってくる。

男同士であることが問題になることは青海にもわかってくるけれど、それでも一緒にいられると思っていた。
しかし勇作の父の言葉に青海は迷い始めます。
勇作の家は漁師で財をなし豪邸に住む町の名士。勇作は父の自慢の息子でもあります。結婚して子供を儲け家を継いで繁栄させていくことを望まれています。青海とのことが歓迎されるはずはない。
周りに親戚がうじゃうじゃいて、誰も彼もが顔見知りで事情通のような漁師の町で男同士の関係がどう思われるかは想像がつくし、都会と違って身を隠してくらすこともできません。
勇作の将来のために、青海は勇作と別れようとする。
東京の医大を受けた青海が町を離れる時、青海は勇作に「待たなくていい」と言います。それが別れのつもりだった。けれど勇作は待つと言い、言葉のとおり待ち続けている。

青海を待ちながら、勇作は着々と将来を見据え足場を固めていますね。
勇作の青海への想いには何の揺らぎもないように見えますが、自分たちの関係が世間にどう見られるかは十分理解していたと思う。その上で、誰からも文句を言われない男になり、町で足場を固めることで何憚ることのない自分と青海の居場所をきちんと作ろうとしていたんだと思う。
高校を卒業して青海が東京へ行ってしまっても、帰ってくると信じてそのために努力しているのが見えてきます。
10年後に勇作の努力の結果がありありと出ていますね。「町議会委員」ですもの(笑)。信頼されていなければそんな地位につけるはずもない。その間の勇作の努力を思うと、すごい愛の強さだなと感慨深くなってしまいます。

あ、祭のことに全然触れてない(笑)。
祭はある種男の象徴ですかね。女が参加できない祭は山ほどある。この本の中の祭もそうだし、実生活でもしゅっちゅう見ますね。全速で走ってる人たちとか棒を取り合ってる人たちとか木に跨って滑ってる人たちとか。
そこで名をあげることが町での男としての名を上げることで、このお話のような小さな漁業の町では、それはとても重要なことになっています。男として認められるということは、自分自身の矜持のためだけでなく、この町での位置にまで関わってくるような。
古くから伝えられてきた祭の意味が今もまだ残っている、あえて言えば古い町。勇作が祭りで一番に御霊を取ることを、男として認められることと考えていますね。そうなったら、青海を抱く、それまではしない…というよりできないと考えているように、若者の間にも浸透している。
しかし祭りにはしばしば勇猛な表の顔だけでなく、陰惨な言い伝えや風習なども残っています。ある言い伝えのせいで、13歳で稚児役をした青海は輪姦されてしまう。

勇作と青海が一緒に暮らし始めた10年後には、祭の様子は様変わりしつつあるようです。以前よりもっとオープンになり、魚つかみ取り大会や、魚料理コンテスト、花火大会も併催した明るいイメージへと変わっていく。それをしたのが勇作だということに意味を感じますね。青海のためという意味も含まれているんじゃないかと、ちょっと思った。
勇作は閉鎖的な町や古い因習に反発するのではなく、町の誰の信頼にも値する確固たる自分の足場を作ることで少しずつ切り開き、堂々と自分たちの場所を作った。
そして青海の稚児の10年後にその役をやった有紀(ゆうき)も、女言葉を話すゲイという彼では、昔の町には帰ってさえこれなかっただろうに、ちゃんと帰ってきて祭の化粧を手伝っている。青海のためにしたことが、ひいては町そのものを変えていったのかもしれない。それぞれがそれぞれの立場で今も町や祭に関わることができ、開放され活性化されていきます。
勇作と青海のためだけでなく、地元を愛し、町を盛り立て、大切に将来に向けて築いていこうという若者たちの思いみたいなものも、感じてしまいますね。

青海の一人称の語り口は、淡々としつつとてもリアルで引き込まれました。雰囲気と、彼らの想いとがうまく溶け合って、凄くいい感じのお話でした。
評判がいいのも納得です。
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