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花隠れ
華藤 えれな著
幻冬舎コミックス (2005.6)
通常2-3日以内に発送します。
イラスト/佐々木久美子(リンクスロマンス)

京都の嵯峨野で独り京友禅の店を営むたおやかな美貌の染色師・結月千尋。彼は不況の煽りで背負った借金のため、地元の名士に身を任せることが決まっていた。
無気力に日々を過ごす千尋のもとに、ある日怒気をあらわにした男が訪れる。手には千尋が手がけた能の舞台衣装。その色が気に入らないと衣装を投げつけた彼は、能の名門・篁ノ院家ゆかりの能楽師だった。
千尋は色直しを申し出るが、些細な行き違いから男に陵辱を受け―!?
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征司郎(せいじろう・25歳)×結月千尋(ゆづきちひろ・26歳)

能世界を舞台にしたお話です。
最近発売になった「花の檻」のリンク作でこちらが最初。
別のお話なので単品でOKですが、「花の檻」を買った際何となく最初も読んで見たかったのでこちらを先に読みました。

「花隠れ」雑誌掲載
「花篝り」書き下ろし の二編収録されています。

「花隠れ」の舞台は京都です。
京都、能、祇園祭に京友禅、着物、甚平、そして千尋の京言葉と和風テイストと雰囲気がいっぱいでした。
能のことは何も知らないんですが、そういう芸術世界の美しさ厳しさが伝わってきました。

両親の亡き後、千尋は父の残した染物屋で仕事をしながら独りで生活しています。しかし昨今呉服の景気はいいとは言えず、借金を払えなくなった千尋は、両親も世話になった地元の名士に借金の帳消しの代わりに愛人として買われることが決まっていました。
能の名門・篁ノ院(こうのいん)家からの注文の着物が最後の仕事。
しかし着物を届けた数日後、千尋の店に若い男が怒気をあらわに乗り込んで、着物の色が気に入らないと文句をつけます。
篁ノ院家ゆかりのものだというその男に色直しを申し出る千尋ですが、千尋の店に篁ノ院征司(こうのいんせいじ)のポスターが貼ってあったことがなぜか男の不興を買い、千尋は抵抗もできずにその場で陵辱されてしまいます。

痛む身体で目を覚ますとなんと隣には自分を犯した男が気持ち良さそうに眠っている。その男は自分を征司郎と名乗り、篁ノ院家の者ではあるが、能は捨てたと言って千尋の家にそのままいついてしまいます。
乱暴でしかし明るく無邪気で子供のような征司郎と過ごすうち、千尋はその優しさや、時に自分に甘えてくる可愛らしさに少しずつ惹かれていきます。そして征司郎の方は…最初っから気がありそうですね(笑) 
千尋は年齢のわりに子供っぽい感じがしないでもないですが、京言葉から感じるように控えめで優しくて、そして可愛らしい。自分を犯した征司郎に腹を立て、眠っている間にパンツに氷を入れたり、ガムテープを脛に張って脛毛を剥がしてしまうなど、怒りに震えているわりにはズレた仕返しをしていて笑えます。千尋は両親から厳しくしつけられ、両親が亡くなったあとは妹達をきちんとしたところにお嫁に行かせることを自分の責任として優先して自分を抑えてきたので、自分の希望を口に出したり素直な気持ちを表したりすることが苦手です。とにかく健気さが目立つ。京言葉のせいかそういう千尋を違和感なく受け入れられます。

征司郎は能を愛しながらも、その狭さ窮屈さ融通のきかなさ、閉鎖的な世界の不自由さに飽き飽きとして、嫌になって篁ノ院家を飛び出しました。そして千尋がファンだと言って貼っていたポスターの篁ノ院征司はまさに征司郎が嫌って飛び出した能楽世界そのものの体現だったんですね。

読むとすぐわかるんですけど、征司郎と篁ノ院征司は同一人物です。
古臭い伝統としきたりに縛られ舞を踊る自分の姿は、彼のジレンマの象徴なんですね。
しかし飛び出した世界を征司郎はやはり愛していて、毎夜千尋が寝たあと、庭で舞の練習をしています。その姿を見た千尋は、彼の天才的な才能に気づき、征司郎は能の世界に帰るべきだと思います。まして自分は借金のために愛人となる身。征司郎を彼の世界に帰すために、千尋は心にもない言葉で征司郎に別れを告げます。

千尋の切なさがひしひし伝わってきます。
そしてそれだけでなく征司郎の迷いもきちんと書かれていることで、ただの切ない恋のお話というだけでなく能の世界にもお話が広がり深みが出ているように思います。

能を舞う征司郎の美しさと、普段の征司郎の野性的な奔放さとのギャップもとても魅力的でした。

書き下ろしは、征司郎とともに東京にやってきた千尋に悩みが生まれます。
千尋を支えに能の世界で自分なりのやり方で生きていこうとする征司郎は、千尋の存在を隠すことなく自宅へ連れ帰り自室に住まわせます。能で忙しい征司郎を待ち過ごすだけの日々。千尋の借金を払い、千尋を連れていくことを条件に篁ノ院家に戻った征司郎なので、表向きは征司郎の父である宗家からも母からも黙認されていますが、影では「愛人」と蔑まれます。
店を捨ててきた千尋は好きな友禅を描くこともできず、それでも自立するために仕事を探そうとしますが、学もなく技術も父からきちんと仕込まれたものの専門的な資格などない千尋を受け入れてくれるところはありません。能の世界で生きることを決意した男はいきいきとしていて、何もできない何も持たない自分の存在がちっぽけに思えてくる千尋。
そして征司郎には縁談が持ち上がり、宗家からは「別れてほしい」と頼まれてしまった千尋は、再び心にもないことを…(笑)。

このお話ではなんと征司郎の子供が出てきます。
能の世界に治まりきれず荒れていた征司郎が家を飛び出していた10代の時、同棲していた女性との間に出来た子供です。若かった二人は子供が産まれた直後に別れてしまい、その女性はとっくに再婚してアメリカへ行ってしまっているのでお話には関わってきません。
この展開で子供はちょっと…と思いましたが、この子が二人の間を結びつけるいい方の役割を果たしてくれます。
またこういう世界では世継ぎというのは重要な避けて通れない問題なので、征司郎がすでにそれをクリアしているという大変上手いポイントに着地しており、千尋との将来から憂いも取り除いてくれています(笑)。
伝統的な世界の中で、殻を破って生きていこうという征司郎の前向きな気持ちに加え、千尋もまた自分に自信をつけるために、天才と言われる征司郎の隣にふさわしい自分でいるために、もう一度学び直そうと初めて前向きに変わります。
確かな未来を感じさせる終わり方は、やはりいいですよね。

リンク作は、こちらにも征司郎たちの理解者として登場する、征司郎の友人のお話です。
そちらは明日に。
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