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リンゴが落ちても恋は始まらない
松前 侑里著
新書館 (2006.3)
通常24時間以内に発送します。
イラスト/麻々原絵里依(ディアプラス文庫)

忍が恋人との旅行から帰ってくると、部屋になぜか他人が住んでいた。
見覚えがあるその男は、同僚の野宮暁人。忍が男と不倫していることを知った父が、忍からマンションを取り上げ、彼に貸してしまったのだ。不倫相手と別れ女性の恋人を作れば部屋は返してくれるという。
それまで行き場がない忍は、暁人の厚意で同居させてもらうことになるが、元から苦手だった暁人とは何かにつけぶつかりあい…?
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野宮暁人(のみやあきひと)×水原忍(みずはらしのぶ)
高校の物理教師と学長の息子の英語教師。同期で同い年。23歳。


恋が始まる前から一緒に住むことになってしまう。
経緯は↑のとおりです(笑)。

忍の人生において封建的な父に逆らうことは許されず、次の学長として跡を継ぐのもすでに決められたこと。忍には10歳年の離れた兄がおり、その兄が父の跡を継ぐはずだったのに、忍が13歳のころ、芸術家肌だった兄は絵の道を進むため家を出てしまい勘当されてしまう。それ以来一度も会うこともなく、次の学長の座は自動的に忍へと決められてしまったんですね。
一時は荒れたものの、すでに亡くなった母が言っていた、「絵の才能は自分の家系の血。お父さんに申し訳ない」という言葉と、逃れられるわけがないという諦めから、忍は次期学長となることを受け入れています。

意に沿わない生活を送るため、忍は本当の自分を普段は封印しています。本当はごくごく普通の青年だと思いますが、そういう自分は見せず、次期学長に似合いの真面目な顔をしてみせ、人とも距離を置きクールを装っている。忍は実はゲイなのですが、それを隠し、本当の自分になれるのはひとり暮らしの部屋に帰ったときだけ。それなのに、男の恋人の存在は父に知れることになり、気が合わない同僚との同居を余儀なくされてしまうわけです。
なりゆきに驚いたあまり、初めから暁人の前で素の自分を見せてしまい調子が狂ってしまう。自分を抑えているのは、自分の望みや鬱憤を抑えるための仮面でもあるわけですが、暁人の前でそれが崩れてしまい、だんだんと仮面にもヒビが入っていくわけですね。
同居当初、忍のストレスは溜まりまくりです。暁人とはまず、意志が通じない(笑)。暁人はあとで書きますがちょっと変わってるんですね。ある意味とてもマイペースで、忍の生活はすべて暁人のペースとなってしまいます。

同居人の暁人の人物像は、ちょっと掴みにくい感じがしました。
物理教師という設定で、「即物的、情緒なし」という言葉が度々出てきます。機械オタクでもあります。浮かぶイメージは、非人間的で冷たい感じですが暁人はそういうタイプではないですね。「即物的、情緒なし」と言われてしまうのは、暁人が些細な心のキビというものにあまり頓着せず、とてもストレートに物を考え口に出してしまうところからきているんだと思います。そういうところが忍の癇に障ったりするわけですが、見方を変えると、心も言葉も飾ることなくある意味真っ直ぐで裏表のない人…という風にも言えると思います。
この暁人もゲイで、そういう直線的なところが相手に嫌がられてすぐフラれてしまうという可哀相な人なんですが、実はそれほど「即物的」で冷たい感じはしないので、そういう描写が出てくることには多少の違和感はおぼえました。すごくいいヤツでしたよ(笑)。たしかにロマンチックなものを見ても物理的な解説をしてしまう暁人は情緒がないということになるのかもしれませんが、微笑ましいじゃないですか(笑)。
「社交辞令」という言葉もあるように、人の言葉に裏があることは誰でも普通に許容していることですが、暁人の言葉にそういうニュアンスはないかもしれない。
そういう意味では「物理的」思考の人で、物理教師という設定もそういう色づけのためだと思いますが、なんとなく一貫してなくて矛盾を感じ、よくわからない人でした(笑)。

それはともかく、合わない合わないと思いながら一緒に過ごすうちに(というか合わないと思ってるのは忍の方だけですが)、二人の心に恋愛感情が芽生えます。
けれど、そもそもの同居のキッカケは忍の男との不倫が発端であり、暁人を忍のマンションに送り込んだ父も、忍の身を案じ暁人に「女性とつきあえるようにレクチャーしてやってくれ」と甚だ検討違いなことを頼んでいたりするわけです。
しかし父の思惑とは違い、二人は恋に落ちてしまう。これが父にバレたらどうなるか。生徒に物理を教えることに喜びを感じている暁人はクビになり教職を失ってしまうだろう。
一度だけ身体を繋げる二人ですが、身体では愛情を伝えあえるのに、言葉にはできません。忍は暁人のために「なかったことにしよう」と告げます。 忍があきらめてしまうのなら、自分はそれを受け入れるしかない。暁人はマンションを出ていきます。

「リンゴは落ちても恋は始まらない」というちょっと風変わりなタイトルには、物理が関わっています。リンゴが落ちるのを見て引力を発見したというアレですね。
ひとつのビーカーに二つの異なる物質を入れると、化学反応を起こしたりします。何も起きなければそれはただ「混在」しているだけですし、起きた化学反応を無視していれば何も起きていないのと同じ。
ある日ひとつの部屋に投げ込まれた忍と暁人という物質の間に化学反応は…?
何かが起きたとしても、それを意味あるものにするためには行動を起こさなければなりません。リンゴが落ちても化学反応が起きても誰かに恋してもそれは同じです。そこから進めなければ何も起きていないのと一緒。自分達のためにそれができるのか。諦めて見ないふりをしては駄目なんですね。そんな意味合いを物理的なものと関連させているタイトルなんですね。

お話としてはかなり地味な部類に入るかもしれませんね。
でもほんわかした優しい雰囲気と暖かい愛情はよく伝わってきます。二人の同僚としてでてくる、生物、化学の教師たちとのやりとりもとても楽しそうな雰囲気。

封建的な忍の父ですが、意外と愛嬌あるユニークな父です。
息子に言いにくいことを言うのに「ビデオレター」を届けたり、勘当した長男の絵の個展に、どこのマフィアですか?というようなコートと帽子で変装して行くような人。
こういう父ですから案ずるより産むが易し。実際息子や孫にはとても甘い愛情ある父親でしたしね。忍と父の間もいい方に変わっていくでしょう。
理解ある友人達にも恵まれていることですし、二人で頑張れば幸せな未来をちゃんと手に入れることができるだろうと思います。
なかなか面白く良いお話でした。
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