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あいの、うた
木原 音瀬著
蒼竜社 (2005.12)
通常24時間以内に発送します。
イラスト/宮本佳野(ホリーノベルズ)

アンダーグラウンド的な存在やインディーズを扱うマニア向けの音楽雑誌の編集部に勤める小菅は、編集部イチオシのバンド「SCUA(スクア)」のどこがいいのかさっぱりわからない。ある日、編集長がするはずだった「SCUA」の取材に代わりに同行した小菅は、ボーカルの久保山から新曲の感想を聴かれ自分の意見を言うが、小菅の言葉に激怒した久保山に殴られてしまう。
しかしひょんなことから、久保山が自分のアパートに入り浸るようになって…。
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「あいの、うた」
「The end of youth」
「その後の…The end of youth」の三編が収録されています。

「あいの、うた」は 
小菅博近(こすげひろちか・25歳)×久保山明人(くぼやまあきと28歳)
「The end of youth」は、
小日向力(こひなたちから)×田頭眞一(たがしらしんいち)
 ※こちらは高校生~28歳くらいまで。力がひとつ年下。
…と別カップルのお話になっています。
「その後の…The end of youth」は、その後の2カップルをさらっと。
それぞれのカップルの片割れ、田頭と小菅は、音楽雑誌「move」の編集長とエディターです。

まず小菅、久保山の方ですが、
久保山はまったく売れないバンドのボーカリスト。
コアなファンはいますが、小菅にはどこがいいのかさっぱりわからない。演奏は下手だし、反社会的なメッセージ色の強い歌詞も好きになれず、ではメロディーが秀逸かといえばそうとも言えず、久保山の低音ダミ声も印象に残るものではなく、おまけに新曲はバランスが悪いうえに11分もあり、聴きづらいことこの上ない。とかなりの酷評です。取材のとき感想を聴かれてここまでハッキリは言わなかったものの、一般論として意見を述べようとした小菅は久保山の怒りを買い、殴られて鼻血を出す始末…と印象はますます最悪なのに、ある出来事から久保山はしょっちゅう小菅のアパートを訪れ食事と寝床を催促し、いわば「入りびたり」のような状態になります。
小菅ははっきり言えば久保山が嫌いで、実はバンドのリーダーの井上(男)に惹かれています。久保山が入り浸るようになって、井上との接点が増えるかもしれない・・・と考え、食べ終わればそのへんでゴロッと寝て再び出ていく、まるで猫のような久保山に好感は持てないものの、とりあえず黙認。
そうやって一緒にいて、ぶつかり大喧嘩になって殴られたりなんだりしているうちに、いろいろあって(笑)くっつくことになるわけです。

小日向、田頭の方は、
まず出会いは田頭が高校2年のとき、バンドを組み仲の良かった小日向優の弟・力(ちから)が同じ高校に入学してきたことが始まりです。
力はとても変わっていて、幼い頃に大阪で育った名残りが家族の中で一人だけ残っていて関西弁を話します。
まあそれは表面的なことなんですが、この力というのが何と説明してよいやら。なりはデカイんですが、中身はまるで2~3歳の幼児のようなんです。とにかく自分の意思や欲求が強く、どういうわけか田頭に懐き、その執着ぶりは…赤ちゃんの後追いと同じです。田頭に付きまとい、迷惑している田頭を察した兄に怒鳴られても殴られても蹴られてもつきまとい、根負けした田頭が「放課後10分だけ話を聞いてやる」と約束すると、それ以外はじっと我慢して待つものの、時間になれば容赦せず、自分のことを喋り捲ります。気に入らないと怒って殴る(暴れる)し、まともに話は通じないし、人のことを思いやることもできないしで、田頭はほとほと困ってしまいます。
力は世間の型には全く嵌まらず、自由といえば聞こえはいいですが、体裁や言葉をつくろうことができない、ちょっと壊れた人のようにも見えます。明らかに他の人とは違う。ですが、そういう人の中にとても純粋でキラキラしたものがあるというのはよくあることで、力もそんな感じです。自分の中に溢れんばかりに溜め込んだ思いを外に出すと、人から疎まれ嫌がられて「変人」と呼ばれる。それは飾ったりオブラートに包んだりせずそのまま思ったことを出すからで、普通はあまり人に言わないようなことも、我慢しなければならない行動も、抑制することができないからなんですね。力が思ったことを書き付けた「詩」のノートは珠玉の出来で、いわば昔いたといわれる芸術家や作家さんのような気質なのかもしれません。

とまあ、そんな困った力に懐かれてしまった田頭ですが、高校卒業後、田頭は親友や力を裏切る形で「芸能界」に進むことになります。しかし、明るい未来が約束されていると思ったのも束の間、田頭はCD2枚が売れたもののそれ以降は鳴かず飛ばずであれよあれよと言う間に下降線になり、仕事はなくなり、CDは出せなくなり、やがて契約も怪しくなってきて、そんな時に再び、力と再会します。
自分に嘘をついて田頭が消えた当初、田頭からの連絡をずっと電話の前に座ったまま待ち続けていたという力。力は今、バーの店長から店を譲られマスターとして働いていますが、田頭への怒りは消えていませんでした。


どちらのカップルもそうですが、お互い惹かれあっていて…などという甘いものじゃないんですよね。はっきり嫌いだったり迷惑だったり。そういう感情をしまいこむだけでなく、溜まりに溜まった感情はワッと溢れ出てはっきり口に出して相手にぶつけますし、そこは木原さんなので容赦ありませんから大変です(^^ゞ 傷つけて傷ついて。
力などは、もし誰か他の作家さんが書かれたら「真っ直ぐにぶつかる健気で一途な年下攻め」だと思うし、「可愛い」と思えてもおかしくないんですが、木原さんはそうはなりませんね(笑) ギャーッと泣いて、手つけられなくなり、大人の理屈が通じないからもちろん話し合いもできない、2、3歳の幼児と対峙したことがあるかたはわかるかと思いますが、まさにあんな感じです。そのまま自分より体が大きくなった、と想像して見て下さい。でも幼児は可愛いと思うこともあるでしょう?確かに力は見方を変えればある意味「可愛い」かもしれません(笑)すごく困るけど。

売れないバンド、干されていく芸能人の悲哀はみじめさがたっぷりだし、登場人物は皆、エゴイストだったり勝手だったり欠点もいっぱいあるしで、みんな本当はいい人でした、ということにもやっぱりなりません。
急に人気が出て、明るい未来が開けるということもない。
負の要素ばっかりで、どことなく暗くて、傷ついて傷つけられて、そんな中で生まれるお互いへの想いだからか、そこだけが明るく照らされてるような気がします。

「痛い」と言われる木原さんですが、これはさほどでもなかったように思います。
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