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牛泥棒
木原 音瀬著 / 依田沙江美イラスト
蒼竜社
ホリーノベルズ(2007.7)


大学で助手をしている亮一郎は年上の口のきけない使用人・徳馬に密かに心を寄せていたが、想いを打ち明けられずにいた。幼い頃から傍にいてくれた徳馬は、短気で我儘な亮一郎にとってかけがえのない存在だったのだ。
関係を壊すより、侍従関係のままでも徳馬を傍に置きたいと亮一郎が思い始めていた矢先、徳馬が突然暇を願い出た。
許せない亮一郎は怒りで徳馬に冷たくあたるが…。
佐竹亮一郎(さたけりょういちろう・25歳)×田中徳馬(たなかとくま・27歳)
植物学助手×使用人
「牛泥棒」
「古山茶 つばき」
「笹魚」の三編。


物の怪が見えて小鬼を扱うけれど自分は何にもできない…畠中恵さんの某シリーズを思い起こさせます。畠中さんの新刊も現在読んでいるところで、元々そういうの好きなので(今市子さんの百鬼夜行抄とか)、抵抗感全然なし。
むしろこういうのは大好きで、この手でBLで好物でないわけがありません。
時代が明治ということで、古色漂う雰囲気と妖怪がよくマッチしています。人と妖がすぐ近くで暮らしていたということを信じるのが容易い時代の雰囲気が素敵です。
そして、木原さんには珍しいことに、登場人物が普通(笑)です。妖が見えるという不思議はあっても、みなそれぞれごく普通の人たち。

「牛泥棒」は、二人が恋人(というか、実質夫婦。笑)になるまで。
造り酒屋『佐竹』の使用人・徳馬は、妖を見ることができます。そして自分の身体の中にも小鬼を飼っていて、その鬼は徳馬の手の平から出入りをしています。
といっても何ができるわけではなく、せいぜい小鬼より弱い妖や幽霊を喰って、災いを防いでくれるくらいです。
徳馬の母が亮一郎の乳母だったので、徳馬は幼い頃から亮一郎と一緒に暮らしています。亮一郎は徳馬をとても慕っていて、裕福な家庭育ちのせいで我儘な亮一郎を徳馬もとても可愛がっていました。
しかし亮一郎は大変病弱で、少し動いただけでも熱を出し寝込んでしまいます。そしてある日、とうとう、亮一郎は危篤に陥ってしまうのです。
徳馬には、それが亮一郎に取り付いた妖怪のせいだと見えていましたが、徳馬には何もできません。しかし、徳馬と同じように妖が見える亮一郎の母が、自分の命を犠牲にして亮一郎を救います。
その一部始終を見ていた徳馬は、亡くなった亮一郎の母の形見を手に入れるために、妖と取引をして声を失います。

真実を知らず、母が突然いなくなった喪失感を抱えた亮一郎は、ますます徳馬に執着します。徳馬がいないと夜も昼も開けないといったよう。
徳馬もそんな亮一郎に尽くし、やがて大学で植物学を専攻するようになった亮一郎について一緒に上京し、ずっと亮一郎の世話を焼いています。
そして亮一郎は早くから徳馬に恋心を抱きながら、告白できずにいます。関係を壊すよりは今のまま・・・と思っているわけです。

しかし、少しずつ二人の関係は均衡が崩れていきます。
突然、徳馬が「暇を貰いたい」と言い出し、次には佐竹家が火事に合い亮一郎の家族と徳馬の母が焼死。家の借金を返すために亮一郎は婚約を余儀なくされます。
そんな時、徳馬が「牛泥棒」として逮捕され、投獄されてしまいます。

「牛泥棒」は、ちょっと切ない部分もありますが、田舎町のちょっとした不思議と、徳馬の声、“牛泥棒”というタイトル、そして妖怪・・・と、それぞれの要素がとても上手く絡み組み立ててあって、とてもよくできているのに感心しました。
ほのぼのした終わり方もまた読後感が良いです。

「古山茶」「笹魚」は、まるで新婚夫婦のような二人がとても微笑ましいです。癇癪持ちで我儘で甘えん坊の亮一郎はとても可愛いし、慎ましく貞淑で健気な徳馬はとてもいじらしい。本当に可愛い夫婦(笑)です。
信頼し愛し合う二人が、知人に取り付いた妖怪を退治するのが「古山茶」ですが、徳馬は妖怪バスターではないですし(笑)、亮一郎はそちら方面には鈍感なので、知人のトラブルに巻き込まれ・・・という形になっているのが押し付けがましくなくていいと思います。特異な能力を使って妖怪と戦うというのが前面に出てしまうと、違うものになってしまいますから。
あくまで、ちょっと変わった力がある普通の人が、身近に起きた不思議に一生懸命対峙するというのがいいですね。

「笹魚」は短いお話で、幸せな新婚生活を営む亮一郎と徳馬、そして亮一郎に助手としてついている原(はら)と近所にすむ千枝(ちえ)の恋の話です。
この恋はちょっと切ない恋なんですけどね。
ここにも妖怪が出ていますが、悪さはしません。
ですが、身近なところで、ひょっとすると気づかないうちに、こんなことが起きているかも・・・と思える時代の優しさが素敵だと思いました。

この木原さんは、かなり好きです。
個人的にお気に入り上位に入るお話です。何度も読み返したい。
読み返してもイタクないのが大変よろしい(笑)。

次は「吸血鬼」だそうですよ~!
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