イラスト/片岡ケイコ(SHYノベルス)
港町で育った多伎にはふたりの親友がいた。
無口だが包容力のある洋人と、裕福な家庭に育ちストレートに愛情を表す隆晴だ。
生まれも育ちもばらばらの三人だったが、多伎を中心に三人はいつも一緒にいた。
だがある日、隆晴が多伎に気持ちを告げたときから、三人のバランスは崩れてしまい…!?
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蒼野多伎(あおのたき) 西村洋人(にしむらひろと)
長門隆晴(ながとたかはる)
同級生。
この三人の中高時代から30を越えるまでの長い間の恋のお話です。
多伎は母子家庭で生まれ育ち、洋人は母と死に別れ漁師の父と二人暮らし、隆晴は地元の名士の息子、と異なる境遇を持つ三人は、中学時代からの親友同士。
多伎は洋人に秘めた想いを抱いていましたが、
それとなく男同士の恋愛について洋人に探りをいれると「俺はそういうのはゴメンだ」と言われてしまい、多伎は胸に秘めた初恋に密かに終止符をうちます。
そんなある日、多伎は思いがけず隆晴から「ずっと好きだった」と告白されます。
洋人に失恋し、やはり同性にしか興味が持てない自分を受け止めてくれる人はいないと思っていた多伎は、隆晴の告白を嬉しいと感じ、それを受け入れます。
自分を好きだと言い、求めてくれる隆晴にのめりこむように惹かれていく多伎。
隆晴の優しさと、何より自分を欲しがってくれる隆晴に、洋人への恋は多伎の心の奥底に沈んでいきます。
多伎の気持ちはとても自然に書かれていて、ただ洋人を忘れるために隆晴を利用したのではありません。
隆晴に癒され、愛され包まれて、惹かれているのは本当だと思います。
それでいて洋人に会うと感じる初恋の疼きのような微妙な感情もとてもうまく表現されています。
ですが、問題はそこではなくて(笑)。
洋人は、東京の大学に進学後そのまま医師となり更にアメリカへ行ってしまった隆晴の不在で寂しい思いをしている多伎の支えとなります。
お話の中心は多伎の揺れる想い、多伎と隆晴の恋なのですが、実はその影に多伎と隆晴の友人として長い間二人の仲を静かに見守ってきた洋人の存在と想いがひしひしと流れています。
裕福な家庭に生まれ、性格も優しく明るく真っ直ぐで成績も優秀でリーダー的な存在だった隆晴とは対極のようなのが洋人です。
漁師の家に生まれ母は亡くなり父と二人暮らしの洋人の家は借金を抱え、その一部は隆晴の父からのものです。
多伎が「愛人の子」といじめられた時に真っ先に助けてくれたのは隆晴ですが、洋人は隆晴がいるときは決して口を出さず、その代わり隆晴がいないときにはすぐに多伎を助けてくれていました。
無口であまり感情を表に出さない無骨で不器用な洋人は、多伎に対して特別な想いを持っていなかったわけではありません。
洋人も多伎が好きだったんですね。
隆晴と多伎がつきあっているということを知った洋人は、それから10年以上に渡って自分の想いを隠し徹底して多伎と隆晴の友人として過ごします。
学生の頃から隆晴と同じくらい優秀だったのに決して前に出ようとせず、人の嫌がることを進んで背負い、寡黙に自分のやるべきことを成してきた洋人は、親友である隆晴と多伎の恋をただ黙って見守り、多伎が助けを求めるときには助け、つかず離れずずっとそばで見守ってきました。
では隆晴は。
隆晴の多伎への想いも一時的なものではありません。
本当に多伎を愛し、必要としていて大切にしたいと思っている。
けれど、隆晴は医師としての夢があり、名家の息子であり、それぞれの立場をすべて捨てずに多伎とのことも上手くやっていこうとしています。
どうずれば多伎とずっと一緒にいられるか、隆晴が出した結論は、多伎を愛人にするというものでした。
大病院の娘と結婚し多伎を愛人にするという隆晴に多伎は抵抗しますが、結局は隆晴に押し切られてしまいます。
長い間隆晴に愛され続け、心だけでなく身体の隅々までに隆晴を刻み付けてしまった多伎は、隆晴を失いひとりになるのが怖いという想いと、愛人という立場に「落された」という現実に苦しみます。
結婚後も足しげく多伎のもとへやってきて「愛している」と囁く隆晴の気持ちに嘘はないのですが、多伎の苦しみは募っていきます。
そしてある日、隆晴の妻が妊娠したということが知らされます。
ショックを受ける多伎。
そしてそれを知った洋人は…?
舞台は日本海に面した海辺の町です。
親友である三人の間に芽生えたそれぞれの恋が、三人の人生を変えていきます。
長い年月をかけて変化していく三人の関係を、海の町の情緒的な空気を感じさせつつ、切なく寂しくしっとりと綴っていきます。
洋人の包み込み見守る愛。
隆晴の激しい束縛する愛。
二人への多伎の想い。
そして親友としての三人。
そのどれもが真剣で嘘はなく切なくて、読むのが辛かったんで休み休み読みました。
見守り続ける洋人の気持ちを思うと苦しくて。
多伎を愛するあまり少しずつ狂気を宿していく隆晴の想いも、隆晴を愛した多伎の想いも、洋人への想いも。
真剣で、そしてあまりに強い自分の中の「執着」から解き放たれたとき「長い夢から覚めたようだ」と言った多伎の気持ちもわかります。
それは決して全てが偽りだったという意味ではないと思うんですよ。
長い間旅をした多伎の心は、やがて帰るべきところへ帰ります。
「ただいま」「おかえり」とそれだけで全てをわかりあえた二人。
さりげないシーンですが、「運命がときを巻き戻した」という言葉がとても印象的です。
静かに見守り包み込む愛と
多伎ためならどんなことでもするという激しい愛。
多伎はどっちを選んだのか。 (わかりますよね。笑)
三人の関係は再び大きく変化します。
けれど決して、二度と会えないような関係ではないと思うんですよね。
恋が三人の関係を変えてしまったけれど、
三人の中にはこの長い間もずっと
確かに友情もあったんですから。
切ない切ない初恋の物語です。
いろんなことを考えさせられました。
SHYノベルスなので字が小さいことは覚悟していましたが(笑)、さらに二段組です。
読み応えありますよ。
蒼野多伎(あおのたき) 西村洋人(にしむらひろと)
長門隆晴(ながとたかはる)
同級生。
この三人の中高時代から30を越えるまでの長い間の恋のお話です。
多伎は母子家庭で生まれ育ち、洋人は母と死に別れ漁師の父と二人暮らし、隆晴は地元の名士の息子、と異なる境遇を持つ三人は、中学時代からの親友同士。
多伎は洋人に秘めた想いを抱いていましたが、
それとなく男同士の恋愛について洋人に探りをいれると「俺はそういうのはゴメンだ」と言われてしまい、多伎は胸に秘めた初恋に密かに終止符をうちます。
そんなある日、多伎は思いがけず隆晴から「ずっと好きだった」と告白されます。
洋人に失恋し、やはり同性にしか興味が持てない自分を受け止めてくれる人はいないと思っていた多伎は、隆晴の告白を嬉しいと感じ、それを受け入れます。
自分を好きだと言い、求めてくれる隆晴にのめりこむように惹かれていく多伎。
隆晴の優しさと、何より自分を欲しがってくれる隆晴に、洋人への恋は多伎の心の奥底に沈んでいきます。
多伎の気持ちはとても自然に書かれていて、ただ洋人を忘れるために隆晴を利用したのではありません。
隆晴に癒され、愛され包まれて、惹かれているのは本当だと思います。
それでいて洋人に会うと感じる初恋の疼きのような微妙な感情もとてもうまく表現されています。
ですが、問題はそこではなくて(笑)。
洋人は、東京の大学に進学後そのまま医師となり更にアメリカへ行ってしまった隆晴の不在で寂しい思いをしている多伎の支えとなります。
お話の中心は多伎の揺れる想い、多伎と隆晴の恋なのですが、実はその影に多伎と隆晴の友人として長い間二人の仲を静かに見守ってきた洋人の存在と想いがひしひしと流れています。
裕福な家庭に生まれ、性格も優しく明るく真っ直ぐで成績も優秀でリーダー的な存在だった隆晴とは対極のようなのが洋人です。
漁師の家に生まれ母は亡くなり父と二人暮らしの洋人の家は借金を抱え、その一部は隆晴の父からのものです。
多伎が「愛人の子」といじめられた時に真っ先に助けてくれたのは隆晴ですが、洋人は隆晴がいるときは決して口を出さず、その代わり隆晴がいないときにはすぐに多伎を助けてくれていました。
無口であまり感情を表に出さない無骨で不器用な洋人は、多伎に対して特別な想いを持っていなかったわけではありません。
洋人も多伎が好きだったんですね。
隆晴と多伎がつきあっているということを知った洋人は、それから10年以上に渡って自分の想いを隠し徹底して多伎と隆晴の友人として過ごします。
学生の頃から隆晴と同じくらい優秀だったのに決して前に出ようとせず、人の嫌がることを進んで背負い、寡黙に自分のやるべきことを成してきた洋人は、親友である隆晴と多伎の恋をただ黙って見守り、多伎が助けを求めるときには助け、つかず離れずずっとそばで見守ってきました。
では隆晴は。
隆晴の多伎への想いも一時的なものではありません。
本当に多伎を愛し、必要としていて大切にしたいと思っている。
けれど、隆晴は医師としての夢があり、名家の息子であり、それぞれの立場をすべて捨てずに多伎とのことも上手くやっていこうとしています。
どうずれば多伎とずっと一緒にいられるか、隆晴が出した結論は、多伎を愛人にするというものでした。
大病院の娘と結婚し多伎を愛人にするという隆晴に多伎は抵抗しますが、結局は隆晴に押し切られてしまいます。
長い間隆晴に愛され続け、心だけでなく身体の隅々までに隆晴を刻み付けてしまった多伎は、隆晴を失いひとりになるのが怖いという想いと、愛人という立場に「落された」という現実に苦しみます。
結婚後も足しげく多伎のもとへやってきて「愛している」と囁く隆晴の気持ちに嘘はないのですが、多伎の苦しみは募っていきます。
そしてある日、隆晴の妻が妊娠したということが知らされます。
ショックを受ける多伎。
そしてそれを知った洋人は…?
舞台は日本海に面した海辺の町です。
親友である三人の間に芽生えたそれぞれの恋が、三人の人生を変えていきます。
長い年月をかけて変化していく三人の関係を、海の町の情緒的な空気を感じさせつつ、切なく寂しくしっとりと綴っていきます。
洋人の包み込み見守る愛。
隆晴の激しい束縛する愛。
二人への多伎の想い。
そして親友としての三人。
そのどれもが真剣で嘘はなく切なくて、読むのが辛かったんで休み休み読みました。
見守り続ける洋人の気持ちを思うと苦しくて。
多伎を愛するあまり少しずつ狂気を宿していく隆晴の想いも、隆晴を愛した多伎の想いも、洋人への想いも。
真剣で、そしてあまりに強い自分の中の「執着」から解き放たれたとき「長い夢から覚めたようだ」と言った多伎の気持ちもわかります。
それは決して全てが偽りだったという意味ではないと思うんですよ。
長い間旅をした多伎の心は、やがて帰るべきところへ帰ります。
「ただいま」「おかえり」とそれだけで全てをわかりあえた二人。
さりげないシーンですが、「運命がときを巻き戻した」という言葉がとても印象的です。
静かに見守り包み込む愛と
多伎ためならどんなことでもするという激しい愛。
多伎はどっちを選んだのか。 (わかりますよね。笑)
三人の関係は再び大きく変化します。
けれど決して、二度と会えないような関係ではないと思うんですよね。
恋が三人の関係を変えてしまったけれど、
三人の中にはこの長い間もずっと
確かに友情もあったんですから。
切ない切ない初恋の物語です。
いろんなことを考えさせられました。
SHYノベルスなので字が小さいことは覚悟していましたが(笑)、さらに二段組です。
読み応えありますよ。
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