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恋愛犯恋愛犯~LOVE HOLIC
凪良ゆう / サクラサクヤ
白泉社
花丸文庫BLACK2008-5-25

季節が夏に向かうとある日、日永望は街中で高校時代のクラスメイト、勢田春人を偶然に見かけた。声をかけた瞬間、勢田は歩道橋から落下し、なんと記憶を失ってしまう。
そんな勢田を日永は自分のマンションへ引き取るが、なぜか彼の過去を説明しようとしない。
実は日永には、勢田をストーカーしたという過去があったのだ。
歪んだ過去を封印したまま、2人の奇妙な同居生活が始まったのだが・・・!?
罪にも似た妄執は、はたして本当の愛となり得るのだろうか?
日永望(ひながのぞむ)×勢田春人(せたはると)
21歳、元同級生、再会、記憶喪失。

花丸文庫から新レーベル、『花丸文庫BLACK』創刊だそうで、数冊の中からこちらを選んでみました。
とりあえず『BLACK』だからか背、裏表紙が黒いです(笑)。

“ビタースイーツでよりDARK”ということですが、選んだ本作は「ストーカー攻」。
視点はこのストーカー・日永で語られるのですが、言うほどビターじゃないと思いました(笑)。
受のことしか見えない日永という男の境遇や想いが切なくて、むしろ甘かった。


高校時代、日永は好きになった勢田の家の前に毎晩何時間も佇み勢田の部屋の窓を見上げていて通報され、“ストーカー”と警察沙汰になってしまいます。
弁護士の父、出来のいい二人の兄たちに比べ、頭も悪く父の期待を裏切った子として見放されていた日永は、性格も無口で感情表現が下手で家庭でも学校でも浮いていましたが、この事件が知られたことで、更に孤独となり、学校ではイジメがエスカレートするようになります。

「ホモ」と言われ、上履きや教科書がなくなり、机や椅子が汚され・・・しかし、日永にとっては周囲の出来事はどうでも良く、大切なのは勢田。
自分の行為が勢田に迷惑をかけたことは悔やんだものの、クラスメートの悪意に晒されることは、日永にとっては大したことではなかったのです。
ところが、いくら苛めても反応のない日永に焦れた周囲の矛先は、ある日ストーカーされた側である勢田に向きます。
すると、自分の苛めには一切反応しなかった日永は、勢田が傷つけられたことを知ると首謀者である男子生徒に暴力を振るい重傷を負わせてしまいます。
事件は弁護士の父によって大金で示談に収められたものの、日永は家からは縁を切られ、隣県の叔母の家に預けられることになります。

それをきっかけに高校も転校し、家とも連絡を取らず、勢田と離れて4年。
高校を卒業し配送センターでアルバイトをしている日永は、自分の町で勢田の姿を見かけ、思わずまた跡をつけてしまいます。
そして勢田の行く先が自分の住むマンションだったことを知り、不在で帰りかける勢田の背中に思わず声をかけてしまうのですが、驚き振り向いた勢田は前方からの通行人にぶつかられ歩道橋の階段を落下。
そして病院で目覚めた勢田は、身体に怪我はなかったものの自分や周囲のこともそれまでのことも何も覚えておらず、逆行性健忘、つまり『記憶喪失』になってしまっていたのです。

・・・と長々と書いてしまいましたが、これは冒頭で話はここから(笑)。
目が覚め、自分の名前も日永のことも何も覚えていない勢田を前にして、日永はつい、ある行動に出てしまいます。
預かった勢田の鞄の中から、勢田の名前や身分、住所などがわかるものを全て抜き取り、勢田が事故にあったとき「たまたま側にいた」と、自分との関係を一切隠してしまいます。
そして“親切な人”として勢田の身元引受人となった日永は、勢田を自分のマンションに住まわせることにします。
嘘と、罪の上に成り立った同居生活に、日永は至上の喜びと幸せを感じるのですが・・・・・・。


ここまで長々書いてしまいましたが、これでもだいぶ端折ってます(笑)。
日永は周囲の評価で言えば完全な「落ち零れ」で、性格的にも、環境や周囲の人に適応できないため自分からも壁を作りがちで、浮いた理解されにくい存在です。
ただ一つだけ、日永にはバイオリンの才能という誇れるものがあるのですが、言葉で感情を表に出せない分、気持ちを音にして感情を表現する唯一の手段であるそれさえも、自分と周囲を繋ぐ糧にはならず、心を解放して自分の世界にこもるための手段となっています。

一人世間からは外れた場所にいる日永にとって「バイオリン」が唯一の大切なものだったのですが、そこに勢田が現れ、日永の中でその存在はバイオリンよりも大きくなります。
最初はただ勢田を見つめていたくて、側にいると感じたいだけで起こした行動がストーカー事件となり、勢田を守りたいという気持ちが暴力事件となり、4年ぶりの再会に手放したくないと感じたことが、勢田の身分を隠し、言わば勢田の家族から、世間から勢田を隠すという行為に及んでしまうことになるのです。

あとがきには「常識なし、友人なし、愛だけ売るほど」とあるのですが(笑)、その愛が、日永を知らずして犯罪行為に走らせてしまいます。
視点は日永なので、日永が全く悪い事をしようとして事件を起こしているわけではないことがよく理解できます。本当に、ただ好きなだけなんですよね。
でも「好きなだけ」で、普通ならそこまでせずに思いとどまるはずの行動に出てしまうところが、日永は確かに壊れた危険な人なのかもしれません。

ですが、語られる日永の気持ちからは、怖さとか危なさはあまり感じらません。
好きで好きでしょうがないのに、うまく事を運ぶことができずにただただ必死にしがみついている、かわいそうな子供。
自分でも悪い事をしているとわかっているのですが、それでも勢田を手放したくなくて、それしか見えない、考えられない。
かなりの妄執愛だと思いますが、勢田をなくしたらおそらく死んでしまうのでは?というくらいの勢田への執着は、読んでてやはりクるので、日永に同調したくなってしまいます。

それを受け止める勢田が記憶を失くす前に日永を訪ねてきていたことから想像がつくし、また高校時代も決して日永に悪感情を抱いていなかったことから、日永がもっと器用であれば事は簡単だったかもしれない、と思わせられます。

日永の行動は、もし勢田が本当に迷惑がっていたら大変な結果になってしまいますが、なんとなくそうではないことがわかるので、「危ない攻」ではありますが後ろ暗い雰囲気はあんまりないんですね。
監禁もしないし縛りもしないですし。
二人の日常生活は、一緒にスーパーに行ったり、料理をして食べたり、表面上は至って平穏な生活です。もちろん、そこにいろいろ起きるわけですけど。
そして日永は行動には問題ありますが、どちらかというと精神的に成長していない可哀相な子供という感じがままあり、また日永は勢田に対して、気持ち的には絶対服従の下僕、または犬志願なのも、あまりダークさを感じない理由になるかもしれません。
なんとなく「困った犬に懐かれちゃったなぁ・・・」という、困惑半分嬉しさ半分みたいな気分になるのですね(笑)
ホントに困った男だけど、断罪できないほっとけない気持ちにさせる。
日永視点のため、勢田についてはわかりにくい部分もあるのですが、面白かったし、読み終わったあとこれは好きな感じだな~と思いました。
私的には選んで正解でした。
コメント
この記事へのコメント
こんにちは、mimuさん。

『花丸文庫BLACK』創刊は知りませんでした。ストーカーですか。確かに学園物で可愛いという花丸のイメージとは違いますね。でも、面白そうです。
で、一応ハッピーエンドなのでしょうか?どうなるにしても、この先日永の人生は大変そうですけど。
2008/05/21(水) 10:41 | URL | 桃 #-[ 編集]
>桃さん
こんにちは、桃さん。

新創刊のことをどこかで見たような気がしたけど詳しくチェックはしてなかったので、私も本屋で「あ、そういえば」と思ったくらいです(笑)。
ラインナップには英田サキさんのファンタジーもあったのですが、こっちを選んでみました。
面白かったので良かったです。

ラストはちゃんとハッピーエンドですよ。
服役して出てくるわけではなく、罪に問われずに済みますので・・・。

日永と家族の関係や、周囲の日永に対する評価は全く改善されませんが、都合よく丸く治めるよりはそれでいいと思いましたし、現在の仕事よりももっと自分の好きなバイオリンに関わる仕事につけるようになるので、これからを感じさせて読後感も悪くなかったです。
少ないですが理解してくれる人もいるし、勢田を通して世間とも少しずつつきあいができるようになっています。
何より勢田がちゃんと受け止めているので、勢田に関することでだけ常軌を逸してしまう日永は、勢田さえいれば大丈夫でしょう(笑)

一冊読んだだけで「花丸文庫BLACK」の方向はよくわからないですが、「花丸文庫」よりは“大人っぽい”んでしょうかね?(笑)
2008/05/21(水) 12:29 | URL | mimu #-[ 編集]
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