尚也は母と養父を事故で亡くし、半分だけ血のつながった弟の裕一郎と二人暮しをしている。小学生の弟との生活を守るため、大学の授業の合間を縫って、バイトに明け暮れる日々だ。
そんな尚也がバイト先で出会い、今は裕一郎の担任になった高野は、二人をいつも暖かく見守ってくれる。
だから尚也は一生言わない、高野に密かな恋をしていることを……。
そんな尚也がバイト先で出会い、今は裕一郎の担任になった高野は、二人をいつも暖かく見守ってくれる。
だから尚也は一生言わない、高野に密かな恋をしていることを……。
高野孝之(たかのたかゆき・23歳)×志田尚也(しだなおや・20歳)
同じ大学の先輩後輩で、小学校教師×大学生。
1996年白泉社発行、「WISH」掲載の「WISH」「HOPE」「あ、」を加筆修正し、書き下ろし「priceless」を加えた四編。
月村さんのデビュー作だそうです。
「WISH」は、簡単に言えば主人公カップルの心が通じ合うまでのお話です。
事故で両親が亡くなり、大学生の尚也は小学生の弟と二人暮らしをしています。両親が生きていたころの経済的水準を落さないまま生活するため、学校以外のほとんどをアルバイトに費やしています。
親を失ったのに、まだ学生で収入がないうえにお金のかかる自分たちが経済的水準を落さないというのは無謀だと思うのですが、尚也にはそうしたいという意地があるのが、読んでいると理解できてきます。
水商売をしていた母の私生児だった尚也は、母が養父と結婚する際養父の親戚に大反対され、母が蔑まれていたのを知っていました。両親が亡くなって、養父の姉が、弟の血を引く裕一郎を引き取ろうとしつこく連絡してきていて、攻撃されないためにも、尚也は頑張らなければならないんですね。
頑張ってきちんとやっていくことは自分の存在意義でもあるんだと思います。
そして、尚也のアルバイト先のドーナツショップで知り合い、同じ大学の先輩だった高野は、現在は小学校教師として裕一郎の担任になっているのですが、知り合った当時の大学生の頃から尚也の事情を知っていて、優しく気さくで、押し付けがましくなく、いつも尚也を助けてくれる人。
尚也は、高野に密かに恋心を抱いていますが、それを押さえ込んでいます。高野の気持ちはわかりやすいんですけどね。
「HOPE」では、晴れて恋人となり、高野のマンションで尚也、裕一郎ともに3人で暮らすようになるのですが、幸せな日々に水を差す出来事が起こります。
高野の妹に二人の関係を知られ、尚也はキツイ口撃を受けてしまうんですね。
「WISH」「HOPE」とも、一生懸命に頑張る尚也が辛い状況となるんですが、実父に疎まれていた尚也のマイナス思考や性格が、実は事の成り行きに大きな影響を与えているように思います。
「WISH」での伯母さんとの関係を読んでいて、「他人(ひと)は自分を映す鏡」という言葉を思い出しました。高野に妙な誤解を与えてしまうのも、尚也のマイナス思考が原因です。
高野の妹が反対するのは仕方のないことだと思うんですが、尚也のような考え方の子にはキツイですねー。父に嫌われていたという尚也は他人が自分に向ける嫌悪の感情にとても敏感で、それを怖れています。
男同士の関係を責められたとき、恋人同士なんだから、どちらか一方ばかりが責められる筋合いじゃないと思うんで、高野の妹の言うことはとても理不尽だと思うんだけど、尚也はそれをまともに受け止めてしまうのね。
高野に片思いしていた時もそうでしたが、ずっと苦労してきて、「欲しい」という望みが叶えられたことのない尚也は、欲しがって手を伸ばす前から、失うことを怖れて逃げ出す傾向があります。
お話はそんな尚也が変わっていく、そういう物語だと受け止められました。
尚也のバイト先のママがすごくいいことを言ってますね。本のオビにもなってますけど「幸せになる義務」って、尚也だけじゃなく読者も勇気づけられる言葉でしたね。
「あ、」は、高野視点の、二人が知り合ったころのお話。
高野がどうして尚也に目をつけ、どう思っていたのかがわかります(笑)
「あ、」がつく関係って、なんだかずいぶん繊細な感覚ですけど、こんな風にセンシティブを解する男なんですね、高野(笑)。
「priceless」は、時間が進んで、尚也が公務員になっています。
初任給で、高野、裕一郎だけでなく、伯母さんや高野の実家にプレゼントを買ってあげています。
伯母さんは口は悪いけれど悪意の人ではなく、さっきも書いたように尚也のつきあかたで関係はずっと変わる可能性があると思います。尚也が嫌味を言ったりできるのって、この伯母さんだけですよね。けっこう面白い関係になれると思うんだけど。
高野の妹の、賛成はしないけど口も出さないという今のスタンスは、かなり大人の反応だと思います。妹もこの出来事で成長しましたよね、きっと。
高野の家にはまだ本当のことを言えないでいますが、全編を通して、高野の立ち位置がとても安定しており、それまでグラグラしていた尚也も高野を信じて、自分の幸せを大切に考えようという気持ちになっているので、すごくしっかりした関係を築いてるんだなと思える二人になっています。大きな壁が立ちふさがっても、一緒に乗り越えていけるだろうと思わせてくれる終わり方です。
デビュー作ということですが、現在の月村さんと隔たりはないように思います。加筆修正されてるからかな。
作者の伝えたいメッセージが一貫していて、わかりやすく受け止めやすいです。良いお話でした。
同じ大学の先輩後輩で、小学校教師×大学生。
1996年白泉社発行、「WISH」掲載の「WISH」「HOPE」「あ、」を加筆修正し、書き下ろし「priceless」を加えた四編。
月村さんのデビュー作だそうです。
「WISH」は、簡単に言えば主人公カップルの心が通じ合うまでのお話です。
事故で両親が亡くなり、大学生の尚也は小学生の弟と二人暮らしをしています。両親が生きていたころの経済的水準を落さないまま生活するため、学校以外のほとんどをアルバイトに費やしています。
親を失ったのに、まだ学生で収入がないうえにお金のかかる自分たちが経済的水準を落さないというのは無謀だと思うのですが、尚也にはそうしたいという意地があるのが、読んでいると理解できてきます。
水商売をしていた母の私生児だった尚也は、母が養父と結婚する際養父の親戚に大反対され、母が蔑まれていたのを知っていました。両親が亡くなって、養父の姉が、弟の血を引く裕一郎を引き取ろうとしつこく連絡してきていて、攻撃されないためにも、尚也は頑張らなければならないんですね。
頑張ってきちんとやっていくことは自分の存在意義でもあるんだと思います。
そして、尚也のアルバイト先のドーナツショップで知り合い、同じ大学の先輩だった高野は、現在は小学校教師として裕一郎の担任になっているのですが、知り合った当時の大学生の頃から尚也の事情を知っていて、優しく気さくで、押し付けがましくなく、いつも尚也を助けてくれる人。
尚也は、高野に密かに恋心を抱いていますが、それを押さえ込んでいます。高野の気持ちはわかりやすいんですけどね。
「HOPE」では、晴れて恋人となり、高野のマンションで尚也、裕一郎ともに3人で暮らすようになるのですが、幸せな日々に水を差す出来事が起こります。
高野の妹に二人の関係を知られ、尚也はキツイ口撃を受けてしまうんですね。
「WISH」「HOPE」とも、一生懸命に頑張る尚也が辛い状況となるんですが、実父に疎まれていた尚也のマイナス思考や性格が、実は事の成り行きに大きな影響を与えているように思います。
「WISH」での伯母さんとの関係を読んでいて、「他人(ひと)は自分を映す鏡」という言葉を思い出しました。高野に妙な誤解を与えてしまうのも、尚也のマイナス思考が原因です。
高野の妹が反対するのは仕方のないことだと思うんですが、尚也のような考え方の子にはキツイですねー。父に嫌われていたという尚也は他人が自分に向ける嫌悪の感情にとても敏感で、それを怖れています。
男同士の関係を責められたとき、恋人同士なんだから、どちらか一方ばかりが責められる筋合いじゃないと思うんで、高野の妹の言うことはとても理不尽だと思うんだけど、尚也はそれをまともに受け止めてしまうのね。
高野に片思いしていた時もそうでしたが、ずっと苦労してきて、「欲しい」という望みが叶えられたことのない尚也は、欲しがって手を伸ばす前から、失うことを怖れて逃げ出す傾向があります。
お話はそんな尚也が変わっていく、そういう物語だと受け止められました。
尚也のバイト先のママがすごくいいことを言ってますね。本のオビにもなってますけど「幸せになる義務」って、尚也だけじゃなく読者も勇気づけられる言葉でしたね。
「あ、」は、高野視点の、二人が知り合ったころのお話。
高野がどうして尚也に目をつけ、どう思っていたのかがわかります(笑)
「あ、」がつく関係って、なんだかずいぶん繊細な感覚ですけど、こんな風にセンシティブを解する男なんですね、高野(笑)。
「priceless」は、時間が進んで、尚也が公務員になっています。
初任給で、高野、裕一郎だけでなく、伯母さんや高野の実家にプレゼントを買ってあげています。
伯母さんは口は悪いけれど悪意の人ではなく、さっきも書いたように尚也のつきあかたで関係はずっと変わる可能性があると思います。尚也が嫌味を言ったりできるのって、この伯母さんだけですよね。けっこう面白い関係になれると思うんだけど。
高野の妹の、賛成はしないけど口も出さないという今のスタンスは、かなり大人の反応だと思います。妹もこの出来事で成長しましたよね、きっと。
高野の家にはまだ本当のことを言えないでいますが、全編を通して、高野の立ち位置がとても安定しており、それまでグラグラしていた尚也も高野を信じて、自分の幸せを大切に考えようという気持ちになっているので、すごくしっかりした関係を築いてるんだなと思える二人になっています。大きな壁が立ちふさがっても、一緒に乗り越えていけるだろうと思わせてくれる終わり方です。
デビュー作ということですが、現在の月村さんと隔たりはないように思います。加筆修正されてるからかな。
作者の伝えたいメッセージが一貫していて、わかりやすく受け止めやすいです。良いお話でした。
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